第134話包囲網6

 パーティー会場がざわついている。

 無理もない、先程まで大がかりな争いが行われていたのだ。


 テーブルが薙ぎ倒され、周囲は煙が上がっていたり氷がこびりついていたり。

 これらは全て魔道士団とかいう連中と仮面の男がやったものだ。


「なるほど、最弱魔法で貴族お抱えの魔道士10人を圧倒ですか……噂に違わぬ化け物みたいですね」


 僕の言葉に全員がはっとする。


「でも、これで僕じゃないとはっきりしましたよね?」


 何せ仮面の男が目の前で暴れたのだ、先程のライセンスカードのこともあるしこれで疑うのには無理がある。


「そのようですね」


「疑って悪かったわ」


 まずセレーヌさんとマリナさんが折れたのか謝罪をしてきた。


「ちっ、エリクじゃなのかよ」


 続いてタックが悔しそうに舌打ちをした。


「ところで皆さん、仮面の男に接触してどうするつもりだったんですか?」


 こうして嫌疑が晴れたので軽く聞いてみる。

 すると彼女達はこれまでの緊張感が薄れたのか口を開いてくれた。


「私とルナはこの恩恵のせいもあってか婚姻相手を選べないの」


「そ、それは……」


 この世界では希少な恩恵の持ち主同士の子供は強力な恩恵を得る確率が高い。

 なので、二人の婚姻に関して同情の念が湧いてくる。



「だけど、アルカナダンジョンを攻略することができれば自由に相手を選ぶ権利を得られるの。だから私達は仮面の男に協力をお願いしたかったのよ」


『ふぅーん、そういうことなんですね。人間って色々しがらみがあって大変ですよね。好きな人と一緒にいられないなんてイブには御免です』


 イブの言葉に共感する。どうも前世の記憶が強いからか、強制的な結婚というのには抵抗があるようだ。


「なるほど、そういう訳ですか」


 マリナさんもルナさんも綺麗だからきっと優秀な人間がこぞって求婚を申し込むのだろう。その中から自分の意思と関係ない相手が選ばれて結婚となると良い気分になるわけが無い。


「タックもそうなんですか?」


 タックも優秀な恩恵を持っているのだが、彼がそんな理由で探しているとは思わない。


「いや、俺は個人的に仮面の男に聞きたいことがあるんだよ」


「聞きたいことって?」


「さっきも話したが、セレーヌが貰った宝飾は俺が管理していたダンジョンの物だ。その中にあったある魔法具を奴は持っているはずなんだよ」


『どれのことをですかね? もしかして売った中にあったりして?』


 足が付かないようにコツコツと個人に売ったりしているのだ。もし既に売り払っていたら顔に出さないように注意しよう。


「へえ、それってどんな魔法具なの?」


「親父の……魔王の持ち物でな。魔力を上限無く行使することができる杖なんだが、持っていかれちまってな。あれを戻さないと親父から半殺しにあうんだよ」


(それってシーソラスの杖のことだよな?)


『まあ、あんな風に隠していたのならそうなんでしょうね』


 どうやらビンゴらしいが、今の僕にはどうにもできない。


「そっか、強く生きてくださいね」


「おまえ……他人事だとおもって軽すぎるぞ」


 そんなタックの悪態を聞き流しながら…………。


「それではもうパーティーも終わりみたいなので今日は解散にしましょうか」


 セレーヌさんがそう締めくくると解散になるのだった。




「それにしても本当に失礼しました。てっきりエリクさんが仮面の男だとばかり思っていたものですから」


 僕はセレーヌさんと連れ立って夜道を歩く。

 明日には船に乗り帰郷する予定なので、身支度をするためホテルに戻っている。


「いえいえ、勘違いさせるような挙動があったこちらにも非はありますし、仕方ないことじゃないかと」


 僕がそう言うとセレーヌさんは飾らない笑顔を向けてくる。

 僕はその表情を見ると違和感を覚えた。何故なら、マリナさんもタックも僕が仮面の男でないと知ると落胆して見せたからだ。

 だが、セレーヌさんは仮面の男を取り逃がしたのに悔しさが見えない。


「そういえばセレーヌさんはどうして仮面の男に合おうと思ってたんですか?」


 先程の場で「悪いようにはしない」と言っていたが…………。


「私の祖先にアルカナダンジョン攻略者がいるのは知っていますよね?」


「ええ、まあハワードさんから聞いてますけど」


「先祖代々の言い伝えがあってですね、もし自分達の時代にアルカナダンジョン攻略者が現れた場合伝えて欲しいと言われてるんです」


「それが理由なんですか?」


 確かに言い伝えは守るべきかもしれないけど…………。


「あとはもし仮面の男の正体がエリクさんだったらなんですけど、無茶をしないで欲しいと言いたかったのもあるんですよ」


 例えどれだけの力があったとしても不測の事態が無いわけじゃない。人一人ができることには限界がある。セレーヌさんはそう言った。


「どうして僕のためにそこまで?」


 僕が聞くとセレーヌさんは振り返ると。


「可愛い後輩を心配しない先輩はいませんからね?」


 月明かりを浴びて笑顔を見せるのだった。






「それじゃあ、また明日」


 部屋の前で分かれるたところでイブが口を開く。


『とりあえず誤魔化せましたね』


「ああ、お疲れ様」


 僕はイブを労った。

 パーティー会場に現れた仮面の男は幻惑魔法を使ったイブだったのだ。


 どれだけ僕を疑ったところで一緒に目撃者になってしまえば問題なかった。

 今回、実際に使って見せた侵入方法は【飛行】と【転移】だった。


 僕は皆の目を盗みつつ天井から飛行で入ったり、転移でその場に現れたりしたのだ。


『ところで、どうして隙を晒したんですか?』


 イブが疑問に首を傾げて見せる。


「本当は今回の対応次第で仲間になってもらえないか勧誘するつもりだったんだよ」


 今後もアルカナダンジョンを攻略していくのなら仲間は必要になる。

 同世代で強力な恩恵を持っている彼女達ならばと考えたのだ。


『では何故正体を明かさずに隠したのですか? 信頼できないからですか?』


 元々、信頼できない場合は逃げ道として今回の手順を用意していた。それを取ったからイブは僕がそうしたのだと思ったようだ。


「いや、アルカナダンジョンコアの問題だよ。今は勧誘しても仕方ない以上は正体を言う必要が無いと思って」


『…………そうですね』


 そう同意したイブの声にはどこか寂しさが潜んでいた。

 


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