第126話真の攻略者が不明

   ★


「なにっ! ダンジョンコアを入手していないだと!?」


 外は日が高く喧騒が外から聞こえる中、会議室では議員達が顔を突き合わせて会議をしていた。


「はっ! 攻略者達に確認したところダンジョンコアは発見していないとのことです」


 それというのもアルカナダンジョンが攻略されたからだ。


 本来。星降りの夜の終わりで祭りは終了するのだが、アルカナダンジョンが攻略されたことが知れ渡ったため祭りは継続した。

 議員達は戻ってきた攻略者への事情聴取や宿泊施設の確保。警備の増強などの手配をしたりなど夜を徹して働き続けているので疲れていた。


「もしかしてダンジョンが攻略されていないのでは?」


 ダンジョンコアはまだどこかに嵌めこまれていて、攻略完了になっていないのではないか?

 1人の議員が疑問を呈する。


「いや、それは無い。本来ならば1年に一度しか開かない入り口がこうして開いている。そして入り口に刻み込まれている『ⅩⅦ』の刻印に線が入った。これは過去に攻略されたアルカナダンジョンにもあった現象だ」


 その説をきっぱりと否定して見せると。


「そんなのは愉快犯がやったのかもしれないだろ?」


 別な方向から違う視点の意見が投げかけられた。


「では入り口の件はどうする? まさか愉快犯が開けたとでも?」


 全員が不測の事態に焦りを覚えている。

 不可能と思っていたアルカナダンジョンが攻略されたのが早朝のこと。それ以来彼らは寝る事もできずに働いていたのだから。


「攻略者達は何か言っていなかったのか?」


 今回ダンジョンを攻略した人間達にB級ライセンスを与えた。

 彼らはアスタナ島での地位を約束された事に喜んだのか質問に素直に答えた。


「そ、それが……彼らは口を揃えて『自分達は伝説の巨人ダイダブラに全滅させられた』と」


 なんでもオリハルコンの鎧を身に纏い剣や魔法も跳ね返し、少しダメージを与えたところで流星からの魔力であっという間に回復してしまう。

 これまで攻略不可能だったのが納得できる情報を攻略者達は話してくれた。


「そんな馬鹿なっ! だとしたらどうしてダンジョンが攻略されたのだっ!」


 実際にダンジョンの入り口は今も開いているのだ。


「そ、それが……目撃していた者の話では『全滅しそうになっていた時に仮面の男女が現れて巨人をオリハルコンの柱で殴り飛ばした』……と」


「ばっ、馬鹿けている……」


 その場の全員が冗談を真に受けることなく笑い飛ばした。恐らくは何かの見間違いだろう。

 戦闘の極限状態ではあり得ないものを見てしまったに違いない。だが誰かが巨人をどうにかしたのは間違いないのだろう。


「つまり……その仮面の男女が怪しいというわけだな?」


 ダンジョンコアが発見されない以上その二人が真の攻略者ということになるだろう。


「入り口のログは解析できたのか? あれを見れば誰がいつ出入りしたかはっきりする筈だろう?」


 古代文明が残した魔道装置。それを解析したのか議員は訊ねた。

 仮面の男女が何者かは知らないが、入退場履歴を見れば正体は明らかになるはず。


 ところが議員のそんな思惑を次の言葉が打ち消す。


「そ、それが……そんな男女の入退場履歴が一切無いんですよ」


「なっ!」


 その報告に議員達は沈黙するのだった。


   ★



「ふぁ……良く寝た……」


『もう夕方ですよマスター』


 それなりに品の良い調度品が置かれた部屋が目に映る。

 ここはアスタナ島施設の中でもB級ライセンス以上を持たなければ入れない宿泊部屋だ。


「もうそんな時間か……起こしてくれれば良かったのに」


 欠伸をした涙をぬぐいながら僕はイブと会話を続ける。


『マスターはお疲れだったんですから。ゆっくり休んで頂こうかと思ったんです』


 確かに今朝方の戦闘はこれまでの中で圧倒的に大変な戦いだった。

 何せ、秒間に100発の攻撃を180秒打ち続けなければ倒せなかったのだから……。

 流石の僕も戦闘の疲れからかダンジョンを脱出すると意識を失うようにベッドに倒れ込んだのだ。


「僕が寝ている間に誰か来た?」


『いいえ、誰も来ませんでしたよ』


「そか、じゃあやっぱり特定はされなかったんだな」


 もしも誰かが僕に気付いたとしたら今頃部屋に押しかけているはずだ。

 僕としては明かせない秘密が多すぎるので正直ほっとしている。


「それで、頼んでいたコアの解析はどうなった? 行商で買い取った特殊コア中と大で6個……それとアルカナダンジョンコアだな」


 寝る前に指示を出しておいたのでイブは即座に返事をした。


『はい。大体は終わってますので目の前に説明を投影しますね』


 その言葉と共にいつもの幻惑魔法を応用した説明文が浮かび上がる。



【合成】……アイテム同士を合成することが出来る。


【シールド】……魔力の障壁を張る事でダメージを引き受ける。蓄積ダメージが魔力を超えると壊れる。


【棒技】……棒系の武器を使った時の威力がアップする。棒スキルの使用が可能となる。


【鑑定】……アイテムを鑑定することができる。


【アイテムボックス】……アイテムを収納できる空間を開くことができる。大きさは魔力量に依存する。


【契約】……パーティーメンバーと契約を交わすことでそれぞれの能力を20%アップさせることができる。


 なるほど、今回も期待が出来そうな効果ばかりだ。だが僕は一つ残念な恩恵を見つける。


「これ。アイテムボックスって……僕にはいらない恩恵だよな」


 僕にはザ・ワールドがあるのだ。今更別な空間収納能力を得たところで意味はない。そう思ったのだが、イブの意見は違うようだ。


『そんなことないです。このアイテムボックスは今後絶対に役に立つと確信できますよ。なぜなら……』


 僕はイブの口から出される言葉に少なからずショックを受けるのだった。




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