第114話タックからの誘い
「それでエリク。参加するのかよ?」
目の前ではタックが身を乗り出して興味深そうに僕を見る。
先程廊下を歩いていたところ声を掛けられてお茶に誘われたのだ。
「そういうタックはどうするんだ?」
「俺はもちろん参加するぜ」
現在話をしているのは先程説明されたアルカナダンジョン攻略のことだ。
「他のアルカナダンジョンに比べて危険が少ないんだろ? 自分の実力がどの程度なのか腕試しするのに丁度いい」
「……まあそうだね」
無駄にやる気にあふれたその様子に僕は適当な返事をする。
先程、説明でしり込みしている生徒達のやる気を出させるためなのか、男は1枚の紙を配った。
その紙にはアルカナダンジョンについてわかっていることが箇条書きされている。
僕はその紙に視線を落とした。
アルカナダンジョンの仕組み
・ダンジョンの入口は流星群が流れると開き、日の出とともに閉じる
・ダンジョンの入口が開いているのは初日を含めて7日だけである
・ダンジョンの中は星空が見えるドーム型になっており、中央に巨大な魔法陣がある。その魔法陣を中心に円を描くように多数の魔法陣が展開されている
・魔法陣からは一定の時間ごとにモンスターが召喚され、近くの人間に襲い掛かる
・一度召喚されたモンスターは誰かが倒さない限りはずっとダンジョン内に残る
・1日経つたびダンジョンの外周の壁が動き全体の広さが狭まる
・期間内に一度でもダンジョンの外に出た人間はその期間に再びダンジョンに入る事はできない
・ダンジョン内では外では見かけることが無いレアモンスターの存在が多数確認されている
・ダンジョンのモンスターは日を追うごとに強くなる
備考……最終日にダンジョンに残って生存した者は誰もいない
その説明を読み終えて顔を上げるとタックが笑みを浮かべていた。
「つまりこのアルカナダンジョンは攻略するには大規模クランを組まなきゃ不可能ってわけだ」
その通りだ。まず次々に召喚されるモンスターを倒さなければダンジョン内にモンスターが溢れることになる。それらを退治するには倒せるだけの人間が大勢必要になる。
「そうなると当然仲間がいる」
更に、食糧や装備の問題もある。
最終日まで滞在するつもりならば7日分の食糧や水が必要になる。
その他にも常に戦闘しているわけにもいかないので交互にメンバーを入れ替える必要がある。
食事や睡眠などの休息に加えてベースの防衛にも人手が必要となるだろう。
「俺と互角に戦って見せたんだ。エリクなら背中を預けても良いと思ってる」
そうして狩った得物のドロップやらを備蓄し、時には外に戻すメンバーに託して確実に利益を上げるのがセオリーと言ってもいいだろう。
「とりあえず今回はどこか有名クランの連中に売り込んでそこで戦果を上げようと思ってる」
その為に必要なのは安定した戦力に大量の物資。治癒士による魔法の援護と安全に休息をとる環境である。
「だからエリク。お前の力が必要だ! 一緒にやろうぜっ!」
そう言って熱い言葉で誘いかけてくるタックに僕はきっぱりと返事をした。
「断る!」
★
「それでルナ、どうしましょうか?」
マリナはテーブルに肘をつくと向かいで何やら見ているルナに声を掛けた。
「当然参加するに決まっている」
「……ですよね。それが目的でわざわざライセンスを取得したのですから」
ルナの言葉にマリナは腕を伸ばすと椅子の背もたれに身体を預けた。一国の王女としてははしたない態度で形の良い胸が強調される。
このような場面を異性がみたら目を離せなくなること間違いなしだが、この場にいるのはルナだけなので問題はない。ルナは淡々と喋る。
「私達はそれぞれがレアな恩恵の持ち主。だけどそのせいで…………」
「結婚相手を自由に選べませんからね」
ルナの言葉を引き取るとマリナは苦々しい顔をした。
「だけど、アルカナダンジョンを攻略すれば」
「……自由に生きられる」
基本的に恩恵は遺伝の影響を受ける。
なのでマリナもルナもその血筋から強力な恩恵を受けている。
彼女達が持つ恩恵は国としても使い手を増やしていきたい恩恵なのだが、そうすると婚姻を結べる相手も限られている。
自国や他国で台頭してくる希少な恩恵の持ち主でなければ上が認めてくれないのだ。
幼い頃からマリナもルナもそのことを良く知っていた。本来ならば父や母が勧めてくる相手と婚姻を結ぶしかないところだが、二人はそれを良しとしなかったのだ。
それがアルカナダンジョン攻略という目標に繋がる。
今から100年前。どこからともなく黒髪の少年少女が現れた。
彼らはこれまでの常識を覆すような力を身に着け、次々にダンジョンを攻略していき、ついにはアルカナダンジョンの一つへと挑んだ。
そこでどのような試練があったかは分からない。だが、1人の探索者の犠牲を出しつつも彼らは攻略不可能と呼ばれていたアルカナダンジョンを攻略したのだ。
そして、彼らは世界中に散らばり、ある者は国を興し。ある者は商売を始めるなどした。
マリナとルナはその時の探索者の血筋を引いているのだ。
自由に相手を選ぶことが出来ない立場の二人だが、伝説と呼ばれた始祖と同等の立場ならば周囲の強制を跳ね返せると考えた。
「だから周りを利用してでも達成してみせるわよ」
マリナの言葉にルナは頷く。その瞳には強い決意が灯っていた。
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