第66話アンジェリカのため息
「エリク様……もうすぐお昼休みが終わってしまいますわ」
「ふぇっ? もうそんな時間? 起こしてくれてありがとう」
目の前ではエリク様が眠たげに目をこすると身体を伸ばしている。
先週のお休みの時もそうでしたが、何やら忙しそうにしている様子です。
「さて、午後の授業も頑張らなきゃな」
そういって気合をみなぎらせて頬を張る様子を見ていると…………。
「あの、もしよければ放課後にクラスメイトとお茶をすることになっていて、エリク様もよろしければ参加されませんか?」
最近、エリク様が疲れた様子を見せています。なので疲労回復に効果のあるハーブティーをふるまって差し上げたいと思い提案したのですが…………。
「ごめんね、放課後はちょっと用事があるんだ」
申し訳なさそうな顔をすると頭を下げられました。
「い、いえ……」
わたくしが引き下がったことでエリク様は教室を移動しようとするのですが……。
「エリク様。無理はなさらないでくださいね」
思わず声を掛けてしまいました。
それというのも、現在のエリク様の姿が過労で倒れた父とおなじように見えたからです。
「えっ?」
エリク様は目をぱちくりさせると私をみてそして…………。
「ありがとうね。もう少しだけ頑張ってみるから心配しないで」
そう言って笑顔を見せるのでした。
「今日はアンジェリカ様のお部屋でお茶会でしたよね?」
放課後になり、お茶会に参加する予定のクラスメイトが話し掛けてきます。
「ええ、わたくしは売店に立ち寄ってから戻りますので、しばらくしてから訪ねてきていただければ幸いですわ」
「わかりました、ちょうど実家からお土産にもらったクッキーがありますのでお持ちしますね」
そんなやり取りを交わすと私は売店へと向かう。その途中で………………。
「あれは…………エリク様?」
研究棟とよばれる施設へと入ってきました。
「たしかあそこは錬金術の調合をする為の施設のはず……」
アカデミー案内の時にそう説明を聞いた記憶があります…………。
「そんなところで何をしているんでしょうか?」
気になりはしましたが、今はほかのクラスメイトを待たせてしまっています。ひとまずは買い物をするべきでしょう。
「アンジェリカ様、こちらのクッキーをどうぞ」
差し出されるクッキーを口に含むとバターの豊かな味わいが広がります。
「とても美味しいですわ」
私が感想を口にするとそのクラスメイトは嬉しそうにしました。
その時に気づいたのが指輪でした。
「あら、その指輪は…………?」
貴族が身に着けるにしては作りが粗く宝石の色合いも良くない。そう考えていると…………。
「実はこれ、フィアンセに頂いたのです」
だけど、彼女はそれを愛おしそうに撫でました。
「フィアンセに……ですか……?」
私が疑問を抱いたことに気づいたのか、彼女は補足してくれました。
「今、街では意中の相手に手作りの装飾品を贈るのが流行ってるんですよ。それでこの前の休日に実家に帰った際、これを頂いたのです。あの時の感動は忘れられません」
本当にその方をお好きなのでしょう。彼女は頬を赤くし、可愛らしい笑みを浮かべておりました。
「アンジェリカ様にはそういった相手はいらっしゃらないのですか?」
「わたくしは……今のところそう言った話はありませんわ」
わたくしにとっては母の病気を治すことが何よりも優先されます。なので、色恋などで時間を費やすことはできません。たとえ秘めた想いがあったとしても…………。
「うちのクラスの何人かはアンジェリカ様に好意を抱いていると思いますよ」
確かにそのような視線を受けているという自覚はありますが、その好意に答えるつもりはありません。
結局その日は彼女の惚気話がメインとなりお茶会は解散になりました。
翌日、いよいよ週末ということもありクラスは浮き立っておりました。
わたくしは城からの呼び出しを受けているので戻らなければならないのが残念です。
周囲の楽しそうな雰囲気を少し残念に思いながら教科書を片付けていると…………。
「アンジェリカ。少しいいかな?」
「エリク様。大丈夫ですわ」
数日ぶりに会話を交わしたとはいえ懐かし気がしました。
エリク様は目に隈を作っているのでどうやら疲れているようです。
「随分とお疲れのようですわ。週末はゆっくり休まれた方が宜しいですわよ」
本当ならどこかにご一緒して友好を深めたいところですが、城での用事があります。私がそんなことを考えていると…………。
「急なんだけどさ、週末にアンジェリカの実家に連れてってくれないか?」
「えっ? 何故ですか?」
予想外の言葉に思わず聞き返してしまいます。
丁度呼び戻されているのでついでならば問題はありません。ですが、エリク様がわたくしの家に来たがる意味が解らないのです。
自然と疑問が沸き起り、そのような視線でエリク様を見ていたのですが、次の瞬間エリク様が爆弾を落としました。
「君の御両親に合わせて欲しいんだよ」
エリク様の真剣な表情に私は首を縦に振るしかありませんでした。
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