第44話クラン団長トーマス

「何? 荷物持ちがいないだと?」


 探索者ギルドの一角にて声が上がった。


「は、はぁ。どうやらこの前のダンジョンでよくない病気をもらってきてしまったらしく、現在は病に伏せているようです」


 声を上げたのはトーマス。ここ王都で『銀の盾』というクランの団長を務める人物だ。

 『銀の盾』は構成人数こそ20名と少ないが、新人の育成から高ランクダンジョンへの挑戦などを積極的に行っている。

 その甲斐もあってか、最近ではクランメンバーの新人が成長したこともあり、王都でも中堅の地位を固めていた。


「くそっ……、そう言えば戻った時に顔色が悪かったな」


 トーマスは責任感の強い男だ。病気で苦しむ荷物持ちに罪悪感を覚える。


「どうしますか? 最悪荷物持ち無しでも行きますか?」


 攻略パーティーメンバーの1人の質問に。


「いや、今回挑むのはランクⅣのダンジョンだ。あの荷物持ちの【アイテムボックス】がなけりゃ話にならん」


 通常、ダンジョンに挑む場合最低限のパーティー編成がギルドより決められている。

 ランクⅠならば4名。ランクⅡならば5名。ランクⅢならば6名。


 これは初心者にありがちな、慢心して少人数でダンジョンに挑んで全滅するという余計な犠牲を出さないためのルールだ。

 そして、彼らが挑もうとしているランクⅣの必要人数は6人。

 高ランクを探索できる人間ほど無茶をしなくなる。なのでランクⅣ以上は基本的に6人いれば攻略してもよいとされている。

 逆に言えばランクⅣ未満は新人扱いの域をでないという意味でもある。


「他のメンバーも揃っちまってるし、何より折角目を付けてたダンジョンなのに他のクランに横取りされるのは気に食わねえ」


 今回の攻略において、他のクランメンバーを先行させ地図を書かせてある。

 既にダンジョン内の地図は完成しており、あとはそこまで進みボスを倒すだけ。

 今は他のクランの連中は攻略できていないが、この仕事は数日あれば状況が激変するのだ。

 荷物持ちの体調が回復したころには既に手遅れになっている可能性が高い。


「でしたら、ギルドに控えている荷物持ちを同行させるのは?」


 その提案にトーマスは口に手をやって考え込む。

 ダンジョン攻略にはパーティー登録する戦闘要員の他に、荷物運びを生業とする非戦闘要員も存在する。

 【アイテムボックス】の恩恵かスキルを持っているが、他に戦闘出来るスキルが無いため荷物持ちとしてダンジョンに潜り、食料や水・ポーションなどの物資を運び、またドロップなどの戦利品を回収する。

 この【荷物持ち】はあくまでも戦闘に参加をしない前提で人員に組み込まれているので、学校に在学中であったり、高ランクダンジョンの探索資格の無い人間でも受ける事が可能だ。


「しかし、あいつほどのアイテムボックスが無ければ……」


 通常。ランクⅣダンジョンを攻略するのに掛る日数は数日ほど。

 今回は下調べが済んでいるのでそこまでは掛からないだろうが、最低でもパーティーメンバーが1週間は潜れる量の物資を保管できる人物でなければならない。


 だが、ギルドのテーブルで声を掛けられるのを待っているのは、普段は低ランクのダンジョンで荷物持ちをしている者達だ。

 戦闘に参加しなくてよいとはいえ、ランクⅣからは敵が1段強くなるのだ。恐らく荷が重いだろう。


 延期かリスクを覚悟で挑むか……。トーマスが答えの出しづらい問題に頭を抱えていると……。


「あのーすみません」


 その場の雰囲気をぶち壊すように少年が話しかけてきた。


「ん。なんだ?」


 トーマスは内心の焦りを出すことなく受け答える。


「少し話が聞こえたんですけど、なんでもダンジョンに挑むのに荷物持ちがいないとか?」


 少年は気後れする事なく笑顔を見せると……。


「もし宜しければ、僕を同行させてもらえないでしょうか?」


「君を……?」


 トーマスは眉をしかめる。何故なら少年は店で売っている初心者用の装備を身に着けているからだ。

 しかもそれが未使用だとトーマスにははっきりわかる。


 確かにクランでは新人育成に力を入れているとはいえ、今回挑むのは数日は掛かるダンジョンだ。新人を連れて行くにはデメリットが大きい。


 トーマスは断ろうと口を開くと――


「あっ、すみません、これ見ないと判断できないですよね。一応これが僕のアイテムボックスです」


 そう言って少年はアイテムボックスを開く。


「これは……」


「凄い!」


 他のパーティーメンバーが驚く声を聞きながらトーマスは同じようにアイテムボックスに釘付けになる。

 それは、本日依頼をするはずだった荷物持ちのアイテムボックスよりも一回り大きかったのだ。


「どうでしょうか?」


 少年のその問いかけに……。


「クラン『銀の盾』の団長のトーマスだ」


 気が付けば手を差し出していた。

 少年はきょとんとすると、それが承諾の言葉だと気付くと。


「エリクです。宜しくお願いします」


 笑顔で握手をするのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る