第40話神殿拡張

「お久しぶりですセレーヌさん」


 思わぬところで遭遇した知り合いに僕はお辞儀をする。


「お久しぶりですエリクさん」


 セレーヌさんはニコリと笑顔を向けると挨拶をしてくれた。

 思わぬところで合ったが、よく考えればそうおかしな話ではない。


 セレーヌさんは『恩恵の儀式』に駆り出される教会側の人間なのだから神殿にいるのはごく普通のこと。

 周囲の人達チラチラとセレーヌさんを見ては通り過ぎて行く。


 ダンジョンに潜った時と違って聖衣を纏っているセレーヌさんは女神ように綺麗なので目を引いているのだろうか?


「そういえばアカデミー試験合格おめでとうございます」


「えっ? どうして知ってるんですか?」


 唐突なお祝いに面をくらった。試験を終えて王都に戻ってきたのは昨日。

 実家には手紙を書いてはいるが、試験結果に関しては関係者しかしらないはずなのだ。


「ふふふ。それはそのうちわかりますよ」


 口元に手を当てて意味深な笑みを浮かべるセレーヌさんに、


「あっ、そうだ。推薦ありがとうございました。おかげで合格できたんだと思います」


 探索ギルドのマスターとサブマスター、そしてセレーヌさんの推薦。そのどれかが欠けていたら受験資格を得ることが出来なかったのだ。


「私は推薦しただけです。合格したのはエリクさんが頑張ったからですよ」


 そういって手をとられる。セレーヌさんの手は暖かくとても柔らかかった。


「ところで、エリクさんはどうしてこちらに?」


 セレーヌさんは首を傾げてきた。

 確かに『祈りの日』でもなければ一般人が神殿を訪れることはほぼない。


「実は寄付をしたくて来たんですけど、どこに行けば良いのかわからなかったんです」


「寄付ですか?」


 セレーヌさんが不思議そうな顔でこちらをみる。

 無理もない。駆け出しにすらなっていない村民が寄付をするというのはそれ程珍しいのだ。


「この度の試験を突破できたのは神様の導きがあってのものだと思ったので。感謝を捧げたいなと」


 恩恵の拡張を説明する程に仲が良いわけではない。なのでもっともらしい理由を述べてみる。


「なるほど。それはとても素敵な考えですね。エリクさんは大変信心深い方だったのですね」


 セレーヌさんは疑うことなく笑って見せると。


「寄付の受付でしたらこちらです。私が案内いたしますね」


 僕の手を引いて歩き出すのだった。



「こちらが寄付を受け入れている神賽箱です」


 セレーヌさんに連れられて伺ったのは神賽箱だった。


「商人や貴族の方は他の窓口になるのですが、一般的な寄付はこちらから行っています」


「……なるほど」


 お参りついでに願い事でもしたい気分になってくる。


 セレーヌさんがニコニコ笑っているのを横目に僕は神賽箱の前に進む。

 横幅が広く、入った硬貨は手を突っ込んで取れない様にかえしが張られている。


(イブ)


『はいマスター』


(僕が金貨を入れて恩恵に変化があったら教えてくれ)


『わかりました』


 僕は懐にあらかじめ用意してあった金貨を取り出すとそれを神賽箱に投げ入れた。


『マスター【神殿】が拡張されました。説明を投影します』


 イブの言葉と共に目の前に説明文が浮かび上がる。



 【神殿】……神殿を設置する事ができる。1日1度祈りを捧げる事で【祝福】を受ける事ができる。受けた祝福は24時間持続する。


 受けられる祝福は下記の中からランダムで2つ発生する。


 ・スピード100%アップ→スピード200%アップNew

 ・パワー100%アップ→パワー200%アップNew

 ・スタミナ100%アップ→スタミナ200%アップNew

 ・マジック100%アップ→マジック200%アップNew

 ・ラック100%アップ→ラック200%アップNew

 ・経験値増加100%アップ→経験値増加200%アップNew

 ・回復力増加100%アップ→回復力増加200%アップNew


(凄いじゃないか。効果が倍になっている上、一度の祝福が2つに増えてるぞ)


 これまでは1つしか祝福を受けられなかったので、その日の行動を祝福に左右されていたのだが、これならばどちらかの祝福で役立つ方を選ぶことができる。


『次の拡張に必要なのは金貨50枚みたいです』


 説明を見直しているとイブが新しい情報を寄越してきた。


(今はこれで十分だな。他にやりたいこともあるし)


 今後の方針について考えこんでいると……。


「凄いですねエリクさん。金貨を寄付して頂けるなんて」


 恩恵の確認に夢中になっていて忘れてたが、セレーヌさんが話しかけてきた。


「このぐらいは当然ですよ」


 こちらも得る物があるのであまり手放しで褒められると居心地が悪い。


「もし宜しければこのお礼に私が何かして差し上げたいのですが、いかがですか?」


 セレーヌさんは胸に手をあてるとそう言ってきた。

 なので僕は遠慮なくお願いをすることにした。


「お店を1つ紹介して貰えませんか?」


「お店……ですか?」


 僕の言葉を聞き返すと首を傾げる。


「ええ。ダンジョンコアを取り扱ってる店に興味がありまして。もし御存知だったらで良いのですけど」


 先日のインクにすり潰す為のコアではなく。きちんと販売している店を僕は探していた。

 セレーヌさんは何かと顔が広く感じたのでお願いしてみると。


「分かりました。私が紹介状を書いて差し上げますね」


 2つ返事で引き受けてくれるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る