第39話神殿

 目の前には荘厳な柱に大理石の床、神秘的な雰囲気を漂わせた建物がある。


「ここが神殿か……」


 その迫力といい知れぬ息苦しさを感じて圧倒されそうになる。


『大きいですねー』


 ところが、イブはそのような感想など無いようで「へぇー」とばかりに緊張の欠片も無く神殿の見た目を率直に述べている。


「ここで寄付すれば良いんだよな?」


 半信半疑なのだが、僕は念のためにイブにここに来た目的を確認すると。


『マスターも昨日説明を読んだじゃないですか?』


 イブからは呆れた声が返ってきた。


 確かにそうなのだが、前例が無いことだけに不安になるのだ。


 なぜ、僕が王都でも有名な神殿に足を運んでいるのかについては昨晩について説明しなければならない。



 《昨晩》


「さて、そろそろ【神殿】を拡張しようと思う」


 本日、ロベルトから報酬を得たことで資金に余裕ができた。ロベルトは大盤振る舞いにも金貨50枚を僕に渡してきたのだ。

 20人を2日程護衛した報酬にしては随分と多い。アンジェリカの実家もお金を出しているらしいので、やはり有力な貴族の家系だったのだろう。

 あって困るものでもないので、好意に甘えることにした。


 そんなわけで、お金が手に入ったのでここらで【神殿】の能力をパワーアップさせておこうと思ったのだが……。


「というわけで【神殿】に金貨を捧げる」


 僕は金貨1枚を【神殿】の上に置いてみた。


「……何も起きませんね?」


 ところが、いつまでたっても変化は起きない。金貨は相変わらず【神殿】に乗ったままだし、大きさも変わらない。


「もう寄付が終わって能力が拡張したって事は無いか?」


 隣で金貨を覗き込みながら不思議そうな顔をしていたイブに聞いてみるのだが……。


「うーん、それは無いですよ。今まで通りの【神殿】ですね」


 そう言って僕の説をあっさりと否定してみせた。


 おかしい。確かに寄付をしたはずなのだがどうして受け付けない?


 思い通りにならないもどかしさで焦りが浮かぶと、


「あっ!」


 何かを見ていたイブが驚きの声を上げた。


「なんだ? どうした?」


 何か解ったのなら教えて欲しい。僕はイブの様子を伺う。


「取り敢えず、マスターにも説明文をお見せしましょうか?」


 イブがそう言うと、目の前に透明な何かが現れた。


「幻惑魔法の応用です。私が普段見ている視界をマスターが見られるように展開しました」


 イブの応用力の高さに驚く。流石ザ・ワールドの管理人だけある。気が利くな。

 僕はニコリを笑顔を向けてくるイブから目をそらし説明書を読む……。


「なるほど、これか」


「そのようですね」


 僕はイブが何に気付いたのか指でなぞると口にした。


 【神殿】……『神殿に寄付金を支払うことで【神殿】を拡張することができる。【神殿】が大きくなると一度に得られる祝福の数、種類も増えていく』



 《現在》


「つまり、あっちの【神殿】じゃなくてこっちの神殿に寄付をすれば良いはずなんだよ」


 まさかの拡張の条件が恩恵では無い本物の神殿への寄付だとは思わなかった。だが、それで説明がついてしまうのだ。


『どこでも拡張できないというのは不便な気もしますけど……』


 イブはやや不満げな声を出す。自分の管理外な場所で拡張するのが気に入らないのだろうか?


「とにかく、そうと分かればまず実験だな」


 そういって神殿の中に入っていく。すると中では厳かな雰囲気を纏った神官衣を着た神官や治癒士が歩き回っている。


 元の世界では無宗派だったので、こういった神を崇めるような場所は緊張する。


(取り敢えず、どこに行けば寄付できるのかな?)


『さあ? そこらの人に聞いてみたら良いんじゃないですかね?』


 流石のイブもそんなこと知りませんとばかりに返事をした。

 僕はなるべく話しかけやすそうな人を選ぼうと行き交う聖職者達を観察していると…………。


「おや、エリクさんじゃないですか?」


 話しかけたので振り返ってみると。


「あなたは……セレーヌさん?」


 そこには以前ダンジョンで一緒をした治癒士のセレーヌさんが笑顔を向けていた。

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