ママが婚約破棄されちゃった
ママがキッチンで泣いています。
ぼくに隠れているつもりだけど、広くないアパートだからすぐにわかってしまいました。
「ママ、どこか痛いの?」
「ううん、大丈夫。なんともない」
笑ってくれました。
でも、涙は止まりません。
ぼくはママのそばに行って、よしよし、しました。
「いやなことがあったのかな?」
「ちょっと……だけね」
ちょっとだけなのにこんなに泣くなんておかしな話です。
ぼくはすぐに嘘だとわかりました。
「新しいパパのこと?」
「……」
ママは答えてくれません。
つまり、当たっているということです。
新しいパパ。
本当はまだパパじゃないのだけど、すこしまえにママから教えてもらいました。
新しいパパはそのとき、ぼくの顔をじっと見て、「賢そうな子だ」と言いました。
「よろしく」でも「はじめまして」でもなく、ぼくのことを見て、思ったことを言っただけでした。
ぼくは黙って、おじぎをしました。
ママはまだ、しくしく泣いています。
慰めるのはぼくの役目です。
「ママにはぼくがいるよ」
「……ありがとう」
ママはぼくをじっと見ました。
そして、ぎゅっと抱きしめます。
「ママね、新しいパパと家族になれないことになったの。わからないと思うけど、婚約破棄……されたの」
「わかるよ」
こんやくはき。
言葉はわからないけど、どういうことなのかはわかります。
パパになる予約が、なくなったのです。
だってぼくがお願いしたことだから。
「サンタさんってすごいね」
「え? サンタさん?」
「うん」
あれから毎晩お願いしていたら、本当に新しいパパをさよならしてくれました。
お願いしたことは内緒にしなきゃいけないって話もあるけど、あれは嘘でした。
ぼくは言っていたから。
幼稚園の先生や、お友だちのお母さんたちには、お願いしていることを毎日言っていました。
でも、お母さんにだけは内緒です。
「サンタさん、ありがとう」
ぼくはお空に向かって言いました。
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