第71話:密会
三日三晩に及んだ宴がようやく終わりを迎えて、数日ぶりの静寂を得た魔王の居城。
僅かな明かりだけが照らす玉座の間。
その中央奥にある玉座に座っているのはこの城の主である魔王ハザール。
周囲には妻や娘、部下の姿は無い。
彼はただ一人でじっと物思いに耽るように虚空の先にある暗闇を凝視している。
数十分か、あるいは数時間か。
彼がそうしていると、ふと暗闇の向こう側から足音が響いてくる。
生気の感じられない規則的で静かなその足音は明かりが照らす範囲の寸前で止まった。
「……誰だ?」
魔王が低い声で、闇の中にいるぼんやりとした輪郭の影へと向かって声をかける。
「私です」
「ああ、お前か……」
影の向こうから返ってきた短い言葉。
それだけで魔王もすぐにその正体を把握する。
「お身体のご調子は?」
「ちょっと無茶はしたが……まあ、ぼちぼちってところだな。それで、あいつらはもう帰ったのか?」
「はい。先程、お屋敷の方へ戻られました」
魔王の問いかけに対して、影は今にも消え入りそうな感情のない小さな声で返答する。
「そうかい。しかし、お前の連れてきたあいつはよくやってくれたぜ。それも想像以上にな」
「はい」
「なんだ、お前には想像通りって感じだな」
影はそれに対して沈黙を返す。
しかし、それが肯定の意を含んでいるのは付き合いの長い魔王には分かっていた。
「でもまあ……まだ何も達成したわけじゃねーからな。全てはこっからだ……」
「はい。私が持ちかけて、貴方が賭けたのはここから先です」
「それで、次はどうすんだ?」
「次は……」
影が一歩前へと踏み出る。
その姿が灯りの元へ顕になる。
「お嬢様方のさらなるご成長……そして――」
肩にかかる程の長さの白い髪が緋色の明かりに照らされて怪しげに輝く。
無表情なメイドが古風な長いスカートを揺らしながら、一歩一歩魔王へと歩み寄る。
「彼の本当の姿を暴いて見せます」
魔王の前へと歩み出たロゼはその無感情な顔から強い意志が込められた言葉を紡ぎ出した。
◆◆◆◆あとがき◆◆◆◆
ここまで読んで頂いてありがとうございます。
本作を気に入って頂いた方は是非、作者の他作品も読んでみてください。
「大迷宮は英雄を求めていない」(現代ダンジョン物)
https://kakuyomu.jp/works/16817330668523458034
「光属性陽キャ美少女の朝日さんが何故か俺の部屋に入り浸るようになった件について」(ラブコメ)
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