パラパラと降り出した雨に咲いた黒


まだ雨は降っていなかった。

徘徊から帰ったとき……。

いや、徘徊と散歩のちょうど中間点のような精神状態だったと思う。

自宅マンションの入口前で、ただボーっと立っていた。

今日は、平日。

時刻は昼の12時半。

マンションの住人の行き来が、ここでは引っ切り無しに起こる。

意識がハッキリとしだした頃、マンションの中から声が聞こえた。

入口の、透明なドアの向こうから現れたのは……。

大学生カップルだ。

色気のあるロングヘアーの美女に目を奪われる。

その、少しあとを彼氏が歩く。

今から大学で、午後の授業に出席するのだろう。

マンション入口のドアを開け、一緒に外に出てきた。

何事もなく、私の目の前を通り過ぎる。

毎回、こういうシーンに遭遇すると、何か奇妙な感覚にとらわれる。

2人を見て、何もできずに終わった若い時間を振り返るのだが……。

精神は、すでに底打ちの状態……。

底に片足を着けながら、わずかな上昇と下降を繰り返す。

無念と絶望の概念が、湧いては消え、湧いては消え、というように……。

もう終わったんだ。

何も考えることはない。

家族なし、友人なし、恋人なし、結婚なし、子供なしの人生。

この世に会話の相手もメールの相手もいない。

だけど、1回きりの人生……。

ああ……。

雨が降り出した。

ポツ……。

ポツ……。

すぐにポツポツに変わり、さらにパラパラに変わった頃……。

黒い花が咲いたんだよ。

あの、何とも言えない効果音とともにね。

少し離れていた2人の距離が、1つの傘の下で密着を果たした。

離れていく2人の後ろ姿……。

30メートルくらい離れただろうか。

突き当たりを右に曲がる瞬間、女性の笑顔が彼の顔に向けられていたのが、ハッキリと見えたよ。

美しい女性の笑顔が、黒い花の下で……、若さあふれる躍動感とともに……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます