君がそこに立っているという残像


玄関のドアを開けると、そこには……。

「今から行くね」

「もうあと10分くらいで着くかな」

電話のときもあれば、メールのときもあった。

待っている間、例えようのないワクワク感があったような無かったような……。

この世で独り、天涯孤独の1人暮らし。

そんな部屋にチャイムが鳴る。

今から会う。

孤独すぎるほど孤独な人生における、あまりにも短い一瞬の。

初恋という片想いは、遠くない未来のある時点で、私が楽しそうに恋愛をしている、というイメージだけで満足できた。

遠くない未来のある時点での片想いは、いつか……という言葉とともに、生涯で1度くらいは来るであろう幸せな恋愛に、焦燥感とともに憧れをもって待っていられた。

ただ運命は、それを許さない。

終わりが近づいたとき、その断片に触れることだけが許された。

あれが最後の片想い。

いや、正確に言うと、最初で最後の片想い。

この30年間、仕事と拘禁施設以外で誰かと過ごしたり会話したりした時間の合計、全部足しても24時間いかない。

そんな20時間超の中で、実に半分を占める。

いろんなシーンがあった中で、なぜか消えないのが……。

玄関のドアを開けると、そこに君が立っているという残像。

笑顔の君が立っているという残像。

記憶ではなく残像。

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