第92話 梨沙との約束(中編)

「大丈夫だって〜! 泳げるよ!」


「い、いや・・・ こればっかりは・・・」


何せ俺はまったくのカナヅチ。泳げば絶対に沈むという一種の才能を持っているのだからな。


「ほら〜! 私が横にいるから。 泳ご❤️!」


「・・・ちょっとだけなら」


俺は梨沙と一緒に頑張って泳いだ。でもやはり才能は必要らしい。何回泳いでも中々上達しない。


「はぁ〜・・・ やっぱ俺は才能ないんだよ」


「そんなことないよ! 初めより泳げてるって!」


まったく・・・ 梨沙はこんな時でも優しくしてくれるなぁ。俺もそういうところが好きなんだよな。


「ほらっ! 私だってこんなに泳げるじゃん!」


「おいおい。あんまり沖に行くと・・・」


「だいじょーぶだっ・・・」


すると梨沙が突然焦りだした。


「お、おい・・・ 梨沙?」


「あ、足が岩に引っかかって・・・」


「う、うそだろ⁉︎ お、おい・・・⁉︎」


冗談抜きでやばい。俺は泳げねえし、周りに誰もいない。どうしよう・・・


「か、かいちゃん! た、たすけ・・・」


「くっ・・・ い、いま行くぞ!」


もうこの際仕方ない。一か八か俺は飛び込んだ。


「く・・そ・・・ 梨沙を助けないと・・・」


やっぱ俺、泳げねえなぁ。つくづく自分が恨めしい。なんでこんな梨沙が危ない時に、俺は役に立てないんだよ? いつも梨沙には助けてもらってるじゃないか? 俺だって、俺だって、こんな時くらい・・・


「はぁ〜 はぁ〜 はぁ〜 り、梨沙? だ、大丈夫か?」


「げ、ゲホッ! ゲホッ! だ、大丈夫」


下を見ると見事に梨沙の足が引っかかっている。これは・・・難しいな。思いっきり引っ張るしかないか。


「よ、よし。梨沙! 一・二・三で抜けるぞ?」


「ゲホッ! わ、わかった」


俺は手にめいいっぱい力を入れて、


「じゃあいくぞ? 一・二・三!」


すると、やっと梨沙の足が岩から外れた。よし。後は岸まで戻るだけだ。と思ったのだが・・・ 俺の体力と集中力も限界に達したらしい。


「はぁ〜 はぁ〜 り、梨沙・・・ ごめん。俺もう・・・」







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