第4話
瀬川高校の北門前はいつも賑やかである。
北門は南門よりも駅から近いからである。やはり大半の生徒が電車を利用するため、必然的に北門の方が人が多くなる。
賑やかなのは好きではないけれど、嫌いではない。思考を放棄できるから、である。
騒がしさが脳を埋め尽くしてくれるから、心地がいい。
そして部活の終わったばかりのこの時間はより一層喧騒が増している。
友達や恋人を待つ人、別れを惜しむようにずっと談笑している集団。
教室とは一味違ってクラス学年入り混じって賑やかなのである。
今日初めて僕はそんな人を待つ群れに混ざっていた。リア充ってこんな気持ちなのか、という気持ちが一瞬頭をよぎったが、悲しいかな僕には話し相手がいないのでそういうわけでもいかなかった。
僕の唯一話のできる相手の編笠先輩も
「……リア充展開の幼馴染イベント、よかったじゃない。あなたにもツケが回ってきたんじゃない?」
といって先に帰ってしまった。
まあ先輩とは話すというよりかはからかわれるだけかもしれない。全くどこのからかい上手の高い木さんだよ。
するとタッタッタッと心地の良いリズムを刻みながら走ってくる幼馴染の姿が見える。
「ごめん、ちょっと先生の話長くって」
「……そっか」
蓮架はそう言って僕と並んだ。
トップカーストの人間とは極力並びたくないが、一歩引いてもおかしいので気を紛らわせるように駅へと足を進める。
それを察したように蓮架もついてきた。
「「…………」」
話が思いつかない。いや、話し方を忘れただけかもしれない。長い時間が空いてしまうと、そうなってしまうものなのだろうか。
時間が解決するとよくいうけれど、逆に言えば時間が変化させてしまうこともあるようだ。
『いつまでたっても友達でいよう』。
聞き飽きた戯言である。時間は便利だけれど理不尽だ。それにはどうしても、抗えない。
「今日の部活さ、凄いキツくてさー」
「ああ」蓮架は確か女バスだった気がする。
「体育館のギャラリー十周くらいさせられてさ、ほんとキツかったー!もうまじで橋田なんなのって話!ああ橋田って顧問ね」
「まああいつ、授業も部活みたいな教え方するもんな」
「ほんとそれー」
当たり障りのない返しをしていく。
昔は一日中話しても飽きなかったのに今はそれができない。
いつからだろうか。こんなにも大きな壁ができたのは。
いや、違う。
いつからだろうか。こんなにも大きな壁を作ってしまったのは。
×××
電車の中でも相変わらず当たり障りのない会話だけを僕らはしていた。
授業のことだとか、互いのことだとか、たくさん話題はふってくれたけどどうも積極的に受け答えはできなかった。
そして分かれ道にたどり着く。
右が僕の家へ続く道、左が蓮架の家へ続く道である。
「今日は一緒に帰ってくれてありがとね、ゆうちゃん」
「別に構わないさ」
それだけ言い残して右へと体を向ける。
「ねえ、ゆうちゃん」
問いかけられたので振り返る。
「明日もいっしょに」「じゃあな蓮架さん」
言葉を言葉で潰して今度こそ右へと体を向ける。
「…………もう『はーちゃん』って呼んでくれないんだね…」
ちゃんと聞こえていたけれど、聞こえていないフリをする。
「ほっといてよ、はーちゃん」
ボソッとそう呟いてから僕は振り返らずに家路についた。
×××
あの分かれ道から家までは比較的に近い距離である。
徒歩十分もかからない。
とにかく今日は早くうちに帰って休みたかった。色々あって疲れている。
鍵穴に鍵をさしこみ、くるりと一回転させるとガチャと音がしたのであとはいつも通りドアを引く。
今日は少し平凡ではなかった。ゆっくり休んで僕の平凡を取り戻そう。
「………………?」
ドアを開けたはいいけれど、なぜか部屋が明るい。
「……………………」
うん、すっごく嫌な予感がする。
重い体を動かして靴を脱ぎ、おもむろに家へと入る。
「…………あ、帰ってきましたか、神名くん、夕食はできてますよ!」
「……………………」
唖然てやつである。
思わず僕は頬をつねって確かめる。夢じゃ、ない……。
「どうしたんですか?頬なんてつねって」
そう言ったあとそいつは少し考え事をする様に顎に手を添えたあとパッと何か思いついたように目をキラキラさせた。
「あ!私みたいなマジカワ美少女ヒロインプリンセスが家にいて夢みたいみたいな!そういうことですか?もう嬉しいなぁ可愛いんだからもう」
そう言ってそいつは僕の肩をポンと叩く。
変わったのは短い黒髪をしばっているくらいで、可愛い顔立ちは全く変わっていない。
そしてエプロンをシャツの上に来て、そいつは立っていた。
「……なんで…」
「…え?」
「なんでいるんだよ
僕の平和な平凡はどこへ行ったぁぁぁ⁈
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