第91話 悪魔が出てきた
危ないところだった……っ!
女団長(?)を拘束し、部屋を出ようとしたところで、廊下から誰かが近づいてくる気配を察知。
ドアを開けて中に入ってくる寸前に、俺は天井へと貼りついていた。
「姉さん!?」
「んん~~~~っ!」
女団長(?)に駆け寄っていく見覚えのある人物に、俺は戦慄する。
聖騎士少女!?
「大丈夫ですか!? くっ、誰がこんなことを……」
まだ危機は去っていない。
聖騎士少女に気づかれないよう、この部屋を脱出しなければならないのだ。
幸い彼女の意識は今、拘束された女団長(?)へ向いている。
この隙に逃げれば――
「んひんっ!」
「え? 後ろ……?」
最悪なことに、聖騎士少女がこちらを振り返ってしまう。
「っ!」
だが最悪な事態はこれで終わりではなかった。
どうにか腰の辺りでキープしていたぶかぶかのズボンが、まさにこの最悪なタイミングでずり落ちてしまったのだ。
結果、パンツ丸出し――そのパンツもずり落ちかかっている――で天井に張り付く姿を、見られることになって。
パンツ丸出しの男 + 手足を縛られた女 = おしまいDEATH
「貴様……なぜ、外に……?」
……あれ?
思ってた反応と違う。
てっきり俺が女団長(?)を襲おうとしていたと勘違いされ、激怒されると思っていたのだが、聖騎士少女は呆然とした顔で俺を見ている。
「まさか、あの次元聖獄から出ることができたというのか……? ……よかっ……た……私は……私のせいで……貴様を……」
こっちもどうしていいのか分からず、戸惑っていると――ずるっ。
パンツが完全に落っこちた。
「~~~~~~~~っ!? こ、この変態がぁぁぁぁぁぁっ!!」
聖騎士少女が我に返ったように怒鳴り、近くに置いてあった謎の置物を投げてくる。
それが見事に俺の股間に直撃した。
痛ぇぇぇっ!?
いや、アンデッドだから物理的には痛くはないんだが、精神的にめちゃくちゃ痛かった。
もし俺が普通の人間だったら悶絶しているだろう。
「貴様っ! 姉さんに何をした……っ!?」
「ち、違う……っ! ご、誤解だ……っ!」
「そんな恰好でよくそんなことが言えるなっ!?」
「これには事情があるんだよおおおおっ!」
「本っ当に、申し訳ない……っ!」
ええと……どうしてこうなった?
俺の目の前で今、聖騎士少女が頭を下げている。
それも地面に膝を突いた状態で、だ。
初めて見る謝罪体勢なのだが、なぜかとても美しいものに思えた。
あれからコミュ障なりに必死に弁明し、何とか状況を理解してもらえたところまではよかったのだが。
なぜか地面におでこが付かんばかりの謝罪を受けてしまい、これはこれで気持ちが落ち着かない。
ちなみにこの事態を作り出した女団長(?)だが、いつの間にかすやすやと眠ってしまっている。
暢気なものだ。
「いや、分かってもらえれば、それでいいんだが……」
「あ、謝るべきは、それだけではない……。私は……結果的に貴様に嘘を吐いてしまったことになる」
「嘘?」
「聖教国に行けば、貴様を浄化することができると言って連れてきておきながら、実際には次元聖獄という、永久に出ることの叶わない牢獄へ送り込むことになってしまった……」
どうやら聖騎士少女は俺を騙す気はなかったらしい。
……考えてみたら、そういうことができそうなタイプには見えないよな。
まぁ、これもまた俺を偽るための演技の可能性もあるわけだが。
正直まだ信用はできないが、ひとまず謝罪を受け入れてみるとしよう。
「……気にしなくていい。確かに閉じ込められたときはビビったが……案外、簡単に出てこれたしな」
永久に出ることの叶わない牢獄?
その触れ込みはやめた方がいいと思う。
「いや……そもそも出てくることなど不可能なはずなのだが……」
「見ての通り、現に出てこれたんだが」
「……あの門が閉じた時点で、別次元に存在する二つの空間は完全に断絶すると聞いている。それを超えてくることができるのは、それこそ神か天使くらいしか……」
あの次元聖獄とやらは元々、神の御使いとされる天使によって創られたものらしい。
それを行使する権限を代々の教皇が受け継いでいるだけで、教皇自身でも断絶した空間を飛び越えることは不可能だという。
「実際、あそこにはかつてこの世界で暴れ回った恐ろしい悪魔が投獄されているというが、その悪魔ですらずっと閉じ込められたままだ」
「あー、そういや、そんな奴いたな」
見た目は人間とそれほど変わらなかったが、中身がヤバかった。
と、そのときである。
凄まじい爆音が轟き、建物全体が大きく揺れたのは。
「っ……何だ……っ!?」
一体何が起こったのかと身構えていたら、外から大きな笑い声が響いてきた。
見ると、空に何かが浮かんでいる。
「ひゃははははっ! 外だっ! 本当に外の世界ですよっ! まさか出られる日が来るなんて思いもよらなかったですねぇ!」
あいつは……あの白い世界にいた悪魔だ。
庭に出てきた神官や信徒たちが、何事かと空を見上げる。
「何だ、あれは……?」
「まさか、悪魔か? こんな場所に?」
「はっ、飛んで火にいる夏の虫だな。聖騎士たちがすぐに討伐してくれるだろう」
彼らを楽しそうに見下ろしながら、悪魔は告げた。
「千年ぶりに外の世界に出ることができて、今わたくしは大変に機嫌がいい。だから出血大サービスといきましょうか。ここにいる皆さんはわたくしの眷属にして、死ぬまでたっぷり可愛がって差し上げますよ」
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