After3 金色の髪の少女


「何だよ、オリビエ。おまえが意地を張るのは勝手だけどさ。部下たちまで、付き合わせる事ないだろ?」


 炎天下に軍服姿のオリビエを見て、いつの間にか戻って来たカイエが、揶揄からかうように笑う。


 カイエも当然水着姿で、長めの海パン一枚という格好だった。


 オリビエの後ろには、同じようにコーネリア帝国軍の制服を着た六人が控えている。彼らはオリビエの部隊に所属する精鋭であり、彼女の護衛兼世話役として同行していた。


「カイエ、そうは言ってもな。オリビエの部下が、自分たちだけ私服に着替える訳にもいかないだろう?」


 一緒に戻って来たエストが、部下たちの言葉を代弁する。


 隠れ巨乳のエストの胸は、この一年でさらに育っており。白いビキニ姿は破壊力抜群で、兵士たちは目のやり場に困っていた。


「だからさ、オリビエが軍服を脱げば良いだけの話だろ? 意地を張って軍服を着ていたところで、意味なんてないんだからさ」


「黙れ! 軍人の矜持きょうじも理解出来ない貴様が、勝手な事をほざくな! 誇り高きコーネリア帝国軍の兵士が、この程度の暑さで音を上げる筈がない!」


 オリビエにそう言われてしまえば、部下たちは我慢するしかなく。カイエも、とりあえず死にはしないだろうと、放置する事にした。


「ねえ、みんな……そろそろ、お昼にしない?」


 このタイミングで、ローズたちがプールから戻って来た。


 一緒にいる十代半ばの金髪の少女が、カイエを見みつめて頬を染める。


「カ、カイエさん……この度はお招き頂きまして、ありがとうございます!」


 少女の畏まった言葉に、カイエは悪戯っぽく笑う。


「何だよ、アイシャ。今さら、他人行儀だな。おまえも俺たちの仲間みたいなもんだからさ、変な遠慮をするなよ」


 少女の名前はアイシャ・シルベーヌ――聖王国の子爵ヨハン・シルベーヌの一人娘で、エマの幼馴染だ。


 カイエはローズたちと旅を始めて間もない頃に、盗賊団に襲われていたアイシャを偶然助けた。


 その後、カイエたちはシルベーヌ子爵家が、エドワード王子の謀略によって窮地に陥っている事を知り。当時十二歳だのアイシャが領民のために自らを犠牲にしようとしたところに、救いの手を差し伸べたのだ。


 それからも、アイシャはカイエたちの旅に何度も同行して。魔族の国であるガルナッシュ連邦国にも一緒に行った。


 これほど仲が良いのに、アイシャが仲間に加わらなかった理由は、彼女自身が実力不足を理解していた事と、シルベーヌ子爵家の後継ぎとしての責務を優先するためだ。


 そんなアイシャも十五歳になり、心身ともに成長して――可愛らしい水色のビキニに包まれたボディは、控えめだが出るところは出ており。同年代の少年たちの目を釘付けにするだろう。


「はい……カイエさんにそう言って貰えると、凄く嬉しいです!」


 しかし、同年代の少年たちなど、アイシャの眼中にはなく――彼女は自分の運命を変えてくれた黒髪の王子様・・・・・・に夢中だった。


(私なんかじゃ……エミーお姉様やローズさんたちに勝てる筈がないけど。それでも……)


 恋する少女の眼差しに、ローズたちは気づいており。暖かく見守るつもりだった――ロザリー以外は。


「何を可愛子ぶってるんですの! ちょっとくらい胸が大きくなったからって、アイシャなんてガキとロ〇コンしか相手にしないのよ!」


 十代前半ローティーンの姿のロザリーとアイシャは、かつては同じポジションを争うライバルだと本能的に察しており。ロザリーはブーメランになるのも構わずに攻撃する。


「あら、ロザリー……貴方の方は、全然成長しなてないみたいね?」


 一方のアイシャは可愛らしく笑っているが――大きな青い目には、極寒の光が宿っていた。


 しかし、どちらが勝者かと言えば……


「アイシャは……何を言ってるのかしら」


 突然、ロザリーは光に包まれると。突然身長が伸びて――


 ゴスロリ衣装はそのままだが、それでも解るほど我がままボディの美少女になった。


「え……どうして……」


「ふふふ……ロザリーちゃんはアイシャと違って、いつでもこの姿になれるんですの!」


 敗北を認めて、愕然と膝を突くアイシャに。ロザリーは勝ち誇るように笑うが――カイエに思いきり後頭部を叩かれる。


「カ、カイエ様……痛いですの!」


「いや、今のはおまえが悪い。ロザリー……おまえはそんな格好をして、アイシャに対抗する必要なんてないだろ?」


 カイエに抱き寄せられて――我がままボディのロザリーが頬を真っ赤に染める。


「おまえの見た目とか、そんなのは関係ないからさ。おまえは好きでゴスロリ幼女をやってるんだろ? だったら……そのままの姿のロザリーの方が俺は好きだからな」


 勿論、カイエは自分が○リコンだと宣言しているのではなく――

ロザリーが愛人ポジションなのは変わらないが。この一年間の間に、カイエとの距離はさらに縮まっていた。


「待って! だったら、僕の事は……カイエはどう思っているんだ?」


 空気を察したメリッサが、割り込んで来る。もう一人の愛人ポジションである藍色の髪の魔族のギリギリ美少女――もとい、二十歳になった魔族の綺麗なお姉さんは、真剣な眼差しで見つめる。


「ああ。勿論、メリッサだって。今のままのメリッサが俺は好きだよ……だけどさ、メリッサもローズたちに遠慮してるうちは、俺との関係は変わらないし。ロザリーだって、いつまでも『カイエ様』とか呼んでるなら、今以上の関係にはなれないだろ?」


 カイエはメリッサを抱き寄せる――メリッサとの関係も、さらに近づいたのは確かだが。二人と一線を越えない理由は、そういうところ・・・・・・・にあるのだ。


 それでも、ロザリーとメリッサはカイエに抱き寄せられて、幸せな気分に浸っており。ローズたち四人も二人を優しく見守っていた。しかし――


 主役を奪われて、蚊帳の外に置かれたアイシャは涙目で。完全に放置されたオリビエは憮然としている。


 オリビエをバカンスに付き合わせているのは、別に嫌がらせをするためではなく――本人は絶対にそう思っているが――アイシャの方が先約だっただけの話だ。


 アイシャを誘ってバカンスに行く約束をした後に、オリビエをギャスレイ・バクストンのところに連れて行く事になったから。バカンスの行き先を変更して、両方一緒にこなす事にしたのだ。


 勿論、わざわざ同時進行にしたのは、他にも理由があるが――カイエはオリビエに説明する気はなかった。

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