第315話 模擬戦の後


 『暁の光』と『ロザリーちゃんのプリティーナイト六号』の一戦の後は――待望のロザリー・メリッサのコンビとカイエの模擬戦となった。


 その傍らで、ローズたちは一対一の戦いを交代で行いながら、残ったメンバーが『暁の光』に魔力操作の基本を教える。アランの魔力は、ほとんど枯渇していたが。カイエが魔力を分け与える事で回復させた。


 カイエとロザリーたちの模擬戦が終わると、『暁の光』には自主練をさせて。カイエたちはバトルロイヤル形式や多対一など、様々な形式の模擬戦を二時間ほど続けた。


 カイエは自分の模擬戦が終わったタイミングで、アレンたちのところにやって来ると。収納庫ストレージから、大量の武器を取り出した。


「おまえたちにやるから、好きなのを使ってくれよ。どうせ収納庫ストレージに入れたままで、使わないからさ」


 カイエが地下迷宮ダンジョンで回収したドロップアイテムだ。カイエたちには不要なモノだが、どれも強力なマジックアイテムで、アランたちの武器が霞んで見える。


「こんな凄いモノ……ホントに貰っちゃって良いの?」


 レイナが遠慮がちに言うが。


「ああ、換金するほど金には困ってないし。貰うのが気が引けるなら、使わなくなったら返すって事でどうだよ?」


 ちなみにローズたちの武器は、神剣アルブレナ以外はカイエ自身が新調したり、魔法で手を加えたりしているから、以前よりもグレードアップしている。


「カイエ、ありがとう。素直に受け取らせて貰うよ」


 アランが代表して礼を言うと、『暁の光』のメンバーたちは早速武器を選び始める。


「ねえ、カイエたちはまだ模擬戦を続けるの?」


 自主練で疲れた顔のレイナが訊く。


「ああ、せっかく時間があるからな。じゃあ、俺はローズたちのところに戻るよ。おまえらは好きにして良いからさ」


 レイナたちに再び魔力を分け与えると、カイエは模擬戦に参加しに行く。


 模擬戦と言っても全力の真剣勝負だし、超高速で繰り広げられる戦闘は疲労度がハンパない筈だが――ローズたちは笑顔で、延々と模擬戦を繰り返している。


「武器を選んだら……俺たちも、もう一頑張りしよう!」


 慣れない魔力操作はロスが多過ぎて、すぐに魔力が枯渇してしまうし。魔力を分けて貰っても、精神的な疲労は消えないが。


 それでも、少しずつコツが掴めて来ているし。何よりも、カイエたちがここまで面倒を見てくれているのだから――


「そうね。みんな……絶対に強くなるわよ!」


 やる気だけは、レイナたちも負ける気はなかった。


※ ※ ※ ※


 模擬戦と自主練を終えると――みんなで風呂に入る事になった。


 さすがに全員で混浴という訳にもいかないし。ローズたちがカイエ以外の男を自分たちの大浴場に入れるのが嫌なのは解っていたので……カイエは風呂をもう一つ用意する。


 空間拡張で作った場所に、大浴場と同じ大きさの浴場を創る。本物の大浴場の方は、女性陣の趣味に合わせて装飾を施しているが。こっちは男湯として使うから装飾など必要ないと、カイエが作るのに掛けた時間は数分だった。


「うわ……メチャメチャ広いし、お湯もたっぷりだね!」


「風呂場全体がマジックアイテムみたいなモノか……理屈としては解るが、普通は作らねえよな」


 興味津々のトールとギルに対して、アランとガイナは少し緊張した感じで風呂場に入って来た。


 シャワールームは黒鉄くろがねの馬車(二号)にもあるし。高級な宿屋には風呂があり、市街地には共同浴場もあるから、アランたちも風呂そのものに慣れていない訳ではないが。この広い浴場が全部魔法で動いている事を考えると、何となく落ち着かなかった。


 しかし、それも最初だけで……たっぷりの湯に浸かれば緊張も解れる。


「毎日、こんな風呂に入れるなんて……いや、カイエとしては当然なんだろうが。俺は凄く贅沢に感じるな」


 アランはリラックスしても、話す内容は真面目だ。


「でもさあ……カイエは、いつも一人でこの広いお風呂に入ってるの?」


 カイエが数分で創ったとは知らない故の発言だが。


「いや。いつもはもう一つの風呂の方に、ローズたちと一緒に入ってる」


「へー……やっぱり、みんなで仲良くお風呂なんだね」


 十代前半ローティーンにしか見えないトールが、ニヤニヤ笑う。


「まあな。みんな俺の嫁と愛人なんだから、一緒に風呂に入るのは当然だろ?」


 トールの揶揄からかいにも、カイエはまるで動じない。


「って事は……カイエはロザリーとも一緒に風呂に入ってるのか?」


 ギルが難しい顔で質問する。どう見ても幼女にしか見えないロザリーと一緒に風呂に入るとか……それって完全にロ〇コンじゃないか?


「まあ、ロザリーとも一緒に入るけどさ。ギル……今おまえが考えてる事をロザリーが知ったら、あいつはブチ切れるからな」


 青冷めるギルに、カイエは意地の悪い笑みを浮かべる。


「それに、これ以上変な詮索はするなよ。俺はそういう・・・・事をベラベラ喋るつもりは無いからな」


 カイエたちの夜の生活に興味があるのは解るが。カイエには暴露する趣味などなかった。


「ああ……ギルは結構ムッツリだからね」


 最初に話を振ったのに、他人事のトール。


「おい、トール! 俺はそんなんじゃないぞ!」


「そうだな、ギルも一途な奴だからな……興味があるのは、ノーラの事だけだろう?」


「おい……」


 アランの思わぬツッコミに、ギルが絶句する。


「何だ、ギル……俺たちが気づいてないと思ってたのか?」


 ガイナにまで突っ込まれて、ギルは眼鏡を曇らせて赤面する。


「おまえたち……ノーラには絶対に言うなよ」


 気づいていないのはノーラ本人だけで。レイナはときどき二人を生暖かい目で見ているし。カイエも彼らと出会った日のうちに気づいていた。


「僕はギルの事を応援してるよ……まあ、余計な事をするつもりはないけどね」


 トールは下手に手を貸そうとか、茶々を入れようなどと思っていない。生真面目なアランはパーティー内恋愛なんて眼中に無いし、ガイナもドワーフの恋人がいるので。邪魔者はいないから、温かく見守るつもりだ。


「糞……俺は自分で思ってたよりも間抜けみたいだな!」


 ギルは恥ずかしさ紛れに舌打ちするが。


「いや、ギルだけじゃないって……俺もローズたちには勝てないって思ってるからさ」


 意外なフォローに、みんなが注目すると。カイエはニヤリと笑って――


「女に惚れて間抜けになるのは、悪い事じゃないって思うよ……そのせいで惚れた奴を傷つけない限りはね」


 ローズたちの安全を優先するなら、こっちの世界に連れて来ない方が良い。だけど、カイエはローズたちの想いを、そしてローズたちと一緒にいたい自分の気持ちを優先してしまった――


 我ながら間抜けな話だが……だからこそ、絶対にローズたちを傷つけさせない。相手が誰だろうと、どんな力を持っていようと。


「カイエ……もしかして、惚気てる?」


 トールのツッコミにも。


「ああ……俺はローズたちのためなら何だってやるよ。あいつらは俺にとって何よりも大切だからな」


 カイエの堂々たる惚気っぷりに――ギルは恥ずかしがっている自分が馬鹿らしくなった。

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