第314話 模擬戦(2)


 この一か月間余りの間、『暁の光』はカイエたちと一緒に何度も地下迷宮ダンジョンに潜った。戦い方や動きについても実戦の中で教えて貰ったから、彼にはすでに白金等級プラチナレベル冒険者と遜色ない強さになっている。


 しかし、同時に『暁の光』のメンバーたちは、今までのやり方で到達できる強さの限界近くまで達っしてしまっていた。これからだって鍛錬や実戦を続けることで強くなれるが、その伸び方は緩やかなモノで。技術を蓄積して熟練する事は出来るが、ベースとなる魔力の伸びしろがないから、大幅なレベルアップは期待できない。


 ハッキリ言ってしまえば、『暁の光』のメンバーの才能や潜在能力は、ローズたちには遠く及ばない。『暁の光』のメンバーに才能がないのではなく、ローズたちが特別過ぎるのだ。


 それでも、やり方さえ変えれば、『暁の光』のメンバーたちも、さらに上を目指すことは出来る。潜在的な魔力の量や才能だけが全てではなく――効率的に魔力を操る事で、能力を伸ばす事は可能なのだ。


「ギルは魔法で先制攻撃。ガイナとレイナは左右から攻撃してくれ! 俺は正面から仕掛けるから、ノーラは支援魔法、トールは全員のサポートを頼む!」


 アランの指示に従って、『暁の光』のメンバーが一斉に動き出す。動きに無駄がなく、タイミングも息もピッタリ合っている。


 ノーラが続けざまに支援魔法を発動させた直後。


「『爆列ブラスト火球ファイヤーボール』!」


 ギルがお決まりの上位魔法を炸裂させる。ノーラもギルも詠唱短縮を覚えたから、以前よりも発動時間までの時間が短くなっていた。しかし……


 爆炎が消えた後――六本腕の骸骨の騎士スケルトンナイトは無傷だった。これまで彼らが戦って来た怪物モンスターは、たとえドラゴンでも無傷という事は無かったのに。


「『ロザリーちゃんのプリティーナイト六号』を舐めて貰っては困りますの……ギルの上位魔法くらい完璧に防ぐ魔法耐性は持っているのよ!」


 『暁の光』が日頃挑んでいる地下迷宮ダンジョン『アルブレナの金書庫』を傘下に収める地下迷宮の支配者ダンジョンマスターロザリーは、彼らの実力を正確に把握していた。


 だから、今彼らの前に立つ『ロザリーちゃんのプリティーナイト六号』は、ノーラが支援魔法を掛けた上で、ギルの『爆列ブラスト火球ファイヤーボール』の威力をを丁度・・相殺できる魔法耐性を持たせている。


 すでにノーラは仲間たちに『加速ブースト』を掛けており、アランたちの動きは速い。アランとガイナとレイナがタイミングを合わせて、骸骨の騎士スケルトンナイトに仕掛けるが――六本の手が持つ凶悪な武器が攻撃を受け止めると同時に、彼らの身体を強引に弾き飛ばした。


「ちょっと……何なのよ、このパワーは! え……嘘、私の剣が!」


 レイナの細身の剣は妖精銀ミスリルで出来ているのに、骸骨の騎士スケルトンナイトの戦斧の一撃で刃が欠けてしまった。


「レイナの剣だと不利だな……ノーラ、レイナに優先的に支援魔法を掛けてくれ」


「解ったわ」


 打撃強化アシストパワー防護シールド、魔力付与など、ノーラはあらゆる支援魔法を連続発動する。乱戦になったので、ギルは単体攻撃用の中位魔法に切り替えて連射。トールも陽動を仕掛けているいるが――アランたちの攻撃もギルの魔法も、骸骨の騎士スケルトンナイトには全く効いていなかった。


「ロザリー……なかなか面白い事をやってるな」


 『暁の光』が戦い始めてから十五分――模擬戦を終えたカイエたちが戻って来た。


「絶妙なバランスだな……さすがは地下迷宮の主ダンジョンマスターロザリーだな」


 カイエは『ロザリーちゃんのプリティーナイト六号』が『暁の光』ではギリギリダメージを与えられない強さに調整されている事を見抜いていた。


「カイエ様……褒めて貰えて、ロザリーちゃんは嬉しいですの!」


 頬を染めるロザリーに、カイエはニヤリと笑う。


「だけど。このままだと、その前にジリ貧だな……メリッサのときみたいに、敗北を味合わせるのも一つの方法だけどさ。あいつらはメリッサみたいにタフじゃないからな」


 才能だけで戦っていたメリッサに魔力操作を教えたときは、徹底的に敗北感を味合わせる事で、カイエたちとの違いを自ら気づかせたのだ。


「いや、僕は自分がタフだなんて思ってないけど……レイナたちに同じ事をするのは、可哀そうだって思うよ」


「そうね……メリッサには悪い事をしたって思うけど。あの頃のメリッサは才能だけでも結構強かったから、それじゃ絶対に勝てないって知る必要があったわ」


「だけど、散々ボコボコにしたのに、メリッサはすぐに立ち上がって来たよね」


「ああ……私も根性論は好きじゃないが。メリッサの精神力は素直に称賛して良いと思うよ」


「私も認めるわよ……ちょっと呆れるくらいだけどね」


 ローズたちにまで褒められて、メリッサは頬を掻く。


「それで……カイエ、結局のところどうするんだ?」


「ああ……こんな事をすると、またロザリーにレイナたちだけに甘いって言われるだろうけどさ。最初の感覚・・・・・は、強制的に教えてやるつもりだよ」


 カイエはそう言うとアランたちが戦っている方へと歩いていく。


「なあ、おまえらさ……応える余裕なんて無いだろうから、一方的に話すけど。これから俺がおまえたちに魔法を掛ける。変な感覚がすると思うけど……驚いて動きを止めるなよ?」


 カイエが発動したのは、魔力感知系の魔法だが。感知の対象は周囲ではなく、自分自身だった。


 自分の中にある魔力と身体に纏っている魔力、そして発動中の魔法を感覚的に認識させる魔法、魔力感覚マナセンス――五感以外の新たな感覚が突然芽生えた事にレイナたちは戸惑うが。予告されていたから、何とか戦い続ける事が出来た。


「剣を振るときや攻撃を受け止めるとき、魔法を発動するときも……おまえたちは無意識に自分の魔力を動かしている。だけど、魔力の意識的に集中する事ができれば……無意識でやるよりも強い魔力を使う事が出来るんだよ」


 もっと以前に教える事も出来たが――レイナたちの戦い方は魔力を操作する以前に、改善したり伸ばしたり出来るところが色々あった。その段階で魔力操作を覚えたら、基本的な技術の方を疎かにしてしまう可能性がある。


 だから、カイエはレイナたちが他の方法で強くなる限界を感じるまでは、魔力操作を教えるつもりは無かった。それに出来れば自分で感覚を掴ませたかった。強制的に教えてしまう・・・・・・・・・・と、魔力操作の精度を上げる段階で苦労する事になるからだ。


 しかし、今は状況が状況なだけに、出来る事は全てやっておきたい。『暁の光』のパワーアップもその一つで、レイナたちが自ら気づく可能性に賭けて待つのではなく、手っ取り早く感覚を覚えさせる事を選んだ。


「剣を振るうとき、魔法を発動するときに……自分の魔力が集中するように意識的に動かすんだよ。とりあえず、あまり細かい事は考えないでやってみろよ」


 カイエに言われるままに、レイナたちは意識して魔力を動かそうとする。まったく経験した事の無い感覚だから、どうやって動かせば良いのかすら最初は解らなかったが――


「あ……こういう事か」


 最初に感覚を掴んだのはトールだ。魔力を集中させると、投げナイフの速度が一気に跳ね上がる。


「だけど……何だか、一気に疲れるね」


「ああ、無駄に魔力を消費してるからだよ。使い方自体は間違ってないけどな」


 次に掴んだのはレイナで、パワーを増した妖精銀ミスリルの剣が骸骨の騎士スケルトンナイトの戦斧を弾き返す。


「嘘……私の力じゃないみたい!」


 アランもガイナも感覚が解ったらしく。今まで全く効果のなかった彼らの剣が、骸骨の騎士スケルトンナイトを削っていく。


「ほら、その調子で一気に片づけろよ。おまえらは魔力の効率が滅茶苦茶悪いから、すぐに魔力切れを起こすからな」


 これもカイエの言った通りで――


 そこから骸骨の騎士スケルトンナイトを倒すまでに、大した時間は掛からなかったが……ノーラ以外の『暁の光』の全員が、倒した瞬間にヘトヘトになって座り込む事になった。

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