第312話 夕食とその後
「凄い……奇麗な眺めね」
三百六十度に取り付けられたガラス張りの大きな窓から、夕日に染まるリンドアの街並みと、郊外に広がる畑や森が見える。
「すぐに料理を作るから、アランたちは適当に座っていてくれないか」
今夜はエストが料理を振る舞う事になったが、人数が多いのでローズとエマも手伝う事にする。
「私も何か手伝うわよ」
「うん……私も手伝うわ」
レイナとノーラが申し出る。『暁の光』では二人が食事の担当で。野営をするときなど料理を作る機会も多から、それなりの腕前だとレイナも自信があった。
「ありがとう、レイナ。でも、料理の方は三人いれば十分だから。レイナたちには配膳をお願いするわね」
などと、ローズにやんわりと断れたのだが――
「……美味しい! カイエが作ってくれた料理も美味しかったけれど、みんなの料理も物凄く美味しいわ!」
『暁の光』のメンバーは男が多い事もあって、今夜のメニューはボリュームたっぷりの肉料理中心だが。魚介類や野菜をふんだんに使った軽めの皿もあり……そのどれもがお世辞抜きで絶品だった。
「レイナ、そう言って貰えると嬉しいわ」
「そうだね。メインの料理はエストだけど、私とローズも何品か作ったからね」
ローズとエマはニッコリと笑う。二人も最初は料理が苦手だったが、カイエに美味しいモノを食べさせたいという一心から、エスト先生に一生懸命習ったおかげで。今ではすっかり上達していた。
アランたちは『旨い、旨い!』と口々に言いながら、貪るように料理を食べていたが。
「こんなに美味しい料理をご馳走してくれて、ありがとうね!」
気遣い上手のトールが三人にお礼を言うと。
「俺たちは食べる事にすっかり夢中になって……申し訳ない。素晴らしい料理を振舞って貰って、皆さんには心から感謝します!」
無作法に気づいたアランも、堅苦しい感じで礼を言って。『そんなに畏まらなくて良いから』とローズたちに微笑ましい視線を向けられる一幕があった後。
「エスト、ローズ、エマ……今日も凄く美味いよ」
「「「……カイエ、私も凄く嬉しい(わ)(よ)!」」」
きちんと想いを言葉にするカイエに、一瞬でピンク色の空間が広がる。
そんな彼らの傍らで――料理という女子力でもレベルの違いを思い知らされていたレイナだったが。
「みんな……私にも料理を教えて貰えないかな。こんな事までお願いするのは図々しいと思うけど……私もカイエに美味しいって言って貰いたいから」
落ち込んでいる暇なんてないと、レイナは三人に頭を下げる。
「ああ。それくらい全然構わないさ」
「うん、レイナの気持ちは解るよ……私に出来る事なら何でも教えるわ」
「そうだね……私とローズだって、最初は全然料理なんて出来なかったんだから」
「みんな……ありがとう!」
頑張るレイナを応援するローズたちに、カイエは優しい笑みを浮かべる。
「ローズさんたちは……レイナに甘過ぎですの!」
「そんなことを言ってるけど……僕はロザリーも十分甘いと思うけどな」
「そうね……あんたが下手な意地を張っても、良い事なんてないわよ」
頬を膨らませるロザリーを、メリッサとアリスが宥める――ちなみにアリスも料理の腕は上達しているのだが。カイエ以外に食べさせるつもりはないと、普段は食べる事と飲む事を専門にしていた。
そんな感じで――今回も『あーん』合戦が勃発したり、エマの食べっぷりにアランたちが唖然とするなど色々あったが。みんなが夕食を食べ終えると……
「ねえ、カイエ……久しぶりにみんなでゆっくり時間が取れる事だし。これから模擬戦をしない?」
カイエたちにとって鍛錬と模擬戦は日課だが――異世界に来るようになってからは、七人で一緒に模擬戦をする時間は余り取れなかった。みんなが集まる夜の時間は、他の事で忙しかったから……
「そうだな。みんなが時差ボケで眠くないなら、軽くやるか」
向こうの世界で昼前に異世界の扉を開いたとき、こっちの世界では真夜中で――まだ眠くないとカイエたちは眠らなかったから、ほとんど丸一日起きている事になる。
「私たちは今日一日暇だったから、少しくらい身体を動かしたいわよ……」
アリスが言外に『別の事で』という意味を含ませて妖艶に笑うので、カイエは苦笑する。
「それじゃ……アランたちも暇なら、ちょっと鍛えてやるよ。おまえたちの相手は……ロザリーが適当に用意してくれないか」
「カイエ様、勿論ですわ……ロザリーちゃんも皆さんと一緒の模擬戦が楽しみですの!」
ロザリーは嬉しそうに応える。アランたちも同意して、さっそく模擬戦をする事になったが。普通に外でやると思っていた彼らは――
「ど……どうなってるのよ、ここは……」
カイエが空間拡張で創り出した『
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