第310話 意外な観察者
まずは手始めにと――ディスティとヴェロニカの主だった部下たちを、カイエは『魔力解析』で調べていく。
その後は、中立地帯にある
ここまでは全員シロで――カイエの予想通りだった。こちらが警戒する事は相手も解っているだろうから、操られている者を見つける確率は低いと思っていた。しかし、揺さぶりを掛けるために、敢えて仕掛けて来る可能性も考えられる。
「私たちはカイエとずっと一緒にいるから、操られる心配はないな」
エストが微笑む。カイエが気づかないうちに、一緒にいる誰かが操られるなんてあり得ない――みんながそう思っていたが。
「いや、そんな事はないだろ。俺より強い奴がいる可能性だってあるから」
カイエ自身が否定する――客観的に考えても、千年前の神の化身や魔神が相手ならば、誰であろうとカイエは勝てる。しかし、彼らが新たな力を手に入れた可能はあるし、未知なる強敵が存在しないとも限らないのだ。
「だからさ……エスト、俺の事はおまえが調べてくれよ」
カイエは
「私がそんな事をして……カイエは構わないのか?」
「何言ってんだよ、エスト。おまえは俺に『魔力解析』されるのは嫌なのか?」
おまえが嫌じゃないなら、俺が嫌がる筈が無いだろうと――カイエは真っ直ぐにエストを見つめる。
「カイエ……嬉しいよ。私の事もカイエが解析して……全部見てくれ!」
全てを見せても構わないと、カイエが思ってくれている事が、エストには何よりも嬉しかった。
「何か良い雰囲気……エストだけズルいよ。カイエ、私の事も全部見てよ!」
「カイエ……当然、私の事も解析するわよね?」
「私の全部を知るのは……カイエ、高くつくからね」
「カイエ様……ロザリーちゃんもお願いしますの!」
「僕の事も……出来れば、優しく調べて欲しいかな」
何か目的が変わってしまった気がするが――カイエは結局、六人に対して『魔力解析』を発動した。
勿論、全員操られてなどおらず。カイエは解析を終えると。
「それじゃ……そろそろ、もう少し可能性がある奴らのところに行こうか」
ここからが本番だからと、ニヤリと笑った。
※ ※ ※ ※
カイエたちが次に向かったのは、イグレドに破壊されたブレストリア法国の首都リンドアだった。
生き残った『深淵の使徒』たちの指揮によって、早くも復興作業が始まっている。カイエたちはまずシャーロンに会って、彼女と部下であるクロウフィンたちの魔力を解析するが――結果は、今回もシロだった。
「疑うような真似をして悪かったな、シャーロン」
「いいえ。この程度の事でカイエ様の信用が得られるなら、安いものです。それに……私程度の能力など、カイエ様ならすでにご存知でしょう」
シャーロンはクロウフィンたちを下がらせて、カイエと話をする。
『暁の光』まで連れて来ているから、カイエと一緒に行動しているのは全部で十三人。人数が多いから目立ちはするが、不都合があるときは認識阻害で隠すつもりだ。
シャーロンは『暁の光』のメンバーの事が気になるようで、『何でこいつらがカイエ様と一緒にいるのか』と、値踏みするような視線を向ける。
シャーロンは魔法の知識に対する貪欲な欲望を持っており、人格は別にして、カイエはある意味で信用している――もしカイエよりも魔法の知識を持つ者が現れたら、確実に裏切るという事も含めて。
カイエはイグレドがアルベルトを襲った事と、イグレドを操った者について、シャーロンに詳しく説明した。カイエにとってはシャーロンも情報源の一つだから、状況を伝える事で、上手く使おうと思っているのだ。
「それにしても……他に操られている者がいないか、いちいち調べているんですか。カイエ様がそこまで用心深く行動されるとは意外ですね。『暴食の魔神』イグレドを操った者など、カイエ様なら一捻りに出来るのではないですか?」
シャーロンはカイエの本当の実力を知らないから、探りを入れるつもりで言っている事は解っている。
「シャーロン……おまえが思っているほど、俺は間抜けじゃないからな」
そもそもカイエの行動は大胆に見えて、実際には用心を怠っていない。索敵や探知系の魔法を常用しているが、隠蔽しているから誰も気がつかないだけだ。それに魔法や能力だけの話ではなく、あらゆる可能性を考えながら常に行動している。
それでも大胆に見えるのは――ゴリ押しできる状況をカイエが作っているからだ。
「そのような事を……私はカイエ様の偉大さを理解しております」
釘を刺すように漆黒の瞳に、シャーロンは内心の焦りを何とか隠す。
「まあ、どっちでも良いけどさ……ところで、シャーロン。おまえに頼みたい事があるんだよ。リンドアにいる『深淵の使徒』を全員集めてくれ……そいつらも操られてないか調べたいからさ」
カイエの言葉にシャーロンは意外そうな顔をする――シャーロンは『深淵の学派』に関する情報をカイエに流しているが、それは組織に対する明確な裏切り行為なのだ。
カイエを他の『深淵の使徒』たちを引き合わせれば、シャーロンとカイエの関係を勘ぐられて、これ以上カイエに情報を流す事が難しくなるだろう。
「集めるのは構いませんが……私が適当に話をしますので。その間にカイエ様は姿を隠したまま、彼らを調べては如何でしょうか?」
「いや、そういうのは面倒臭いし……イグレドを操った奴に完全に出し抜かれるような連中だからな。俺の事を知られたって、何の問題もないだろ」
こういうところが大胆だと思われる原因だが――カイエは意図的にやっているのだ。それが解っているから、ローズたちは何も言わない。
「なあ、シャーロン……『深淵の学派』を牛耳る気はないか? おまえなら出来るって、俺は思ってるんだよ」
『深淵の学派』を情報源にするなら、シャーロン一人よりも組織として動かした方が効率的だ。だから、この機会に『深淵の使徒』全員を掌握しようと思っている。
形としてはシャーロンを頭に据えるつもりだが、互いに監視させれば、シャーロンを含めた全員を縛る事が出来る――こういうやり方を、カイエは好まないが。相手次第では有効だと思っている。
「なるほど……そういう事ですか、承知しました。カイエ様の前に『深淵の使徒』全員を
シャーロンは『深淵の学派』を見限っており、自分以外のメンバーに価値を認めていない。だから、カイエに彼らを売り渡す事には何の抵抗もなく、対価として新たな魔法の知識を得られれば良いと考えていた。
シャーロンは
(
(まあ、そう言うなって……俺とアリスで上手く使うからさ)
視線だけで会話をするカイエたちと、完全に蚊帳の外にいる『暁の光』だったが。
(へー……カイエが
トールだけは理解した上で、状況を楽しんでいた。
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