第268話 仕掛人の正体
カイエが転移魔法で向かった先は――アルペリオ大迷宮の最下層。
大迷宮の主である光の神の化身アルジャルスは、当然のようにカイエたちの来訪を予想していた。
「どうした、カイエ……その顔は、我に文句を言いたいようだな?」
光の神の化身――神聖竜アルジャルス・ヴェルドナギアは、白い髪の美女の姿で長椅子に凭れながら、カイエたちを迎えた。
「ああ、アルジャルス……おまえのおかげで、ローズたちが実力を伸ばした事には一応感謝してやるけど。時間を止めるとか……普通なら、下手をすれば廃人になるところだろう?」
ローズたちが急激に実力を伸ばした理由――それはアルジャルスが創った時間が停止した空間で、アルジャルスとの模擬戦と鍛錬を繰り返していたからだ。
時間を止めてしまえば、何の制約もなく実力を伸ばす事が出来る――いや、そんな単純な話ではないのだ。
時間を止めてしまえば、体力も魔力も回復しない。ローズたちも消耗はするし、体力にも魔力にも限界はある。しかし、光の魔神であるアルジャルスが、魔力を分け与える事で強制的に回復させたのだ。
その結果……ローズたちは延々と鍛錬を続ける事が出来たが、戦い続ける事で精神は疲労していく。
眠りによる精神の回復も出来ない状態で、それを続ければ……終わりのない世界で延々と精神を擦り減らした者の行く末は、廃人しかない。
しかし、アルジャルスは悪びれもせずに――
「普通の者ならば……という話であろう? カイエ、貴様はローズたちを侮っておる……ローズたちは、このアルジャルスが友と認めたのだぞ?」
堂々と言い放つ。だが、カイエも引き下がらなかった。
「だからってな……廃人にならなければ良いって問題じゃないだろ?」
延々と終わりのない鍛錬――その果てには、どんな
ローズたちが今の実力を手に入れるには、少なくとも数年単位の時間と、自分の限界を超えるために徹底的に自分を追い込む必要があった筈だ。
カイエ自身も千年以上前に同じ事を経験している――混沌の魔力を自らのモノとする過程で、カイエは停止した時間の中で研鑽を続けたのだ。
「だから、カイエ……何度も言わせるな。貴様はローズたちを侮っていると言っておるのだ。こんな事を我が言うのも片腹痛いが……ローズたちの想いの強さを、貴様は見誤っておる!」
このとき――ローズが、エストが、アリスが、エマが……カイエをギュッと抱きしめる。
「カイエ……私たちはカイエの力になりたいの」
「ああ……カイエと一緒にいられるなら……」
「あんたは……私たちの事を舐めてるわよ」
「うん……私は何だって出来るよ! だって……カイエが大好きだから!」
四人に真っ直ぐに見つめられて――ロザリーとメリッサも、そんな彼らに寄り添っていた。
ローズたちが強くなれた理由には、実はもう一つ加える必要があった。
延々と鍛錬を続けて、格上であるアルジャルスとの模擬戦を繰り返しても、それだけで限界を超えられる筈もない。
魔力の効率化と
カイエの一挙手一投足を見逃さずに、カイエの事をもっと知りたい、もっと理解したいと想い続けて来たから……その想いの強さが、彼女たちの限界を何度も突破させたのだ。
「そうだよな……ごめん、みんな解ったよ。そして、ありがとう……おまえたちだけが、俺とって本当に特別なんだ」
突然出現する濃密なピンク色の空間――その余りの甘ったるさに、アルジャルスは思いきり顔を顰める。
「カイエ……もう貴様も納得したであろう? だったら、さっさと帰って、そういう事は自分たちの
「いや、アルジャルス……おまえがいなければ、今の状況にならなかった事には変わりないからさ」
カイエは意地の悪い笑みを浮かべる。
「だから……責任を取って、最後まで見届けろよな」
アルジャルスに見せつけるように、カイエはさらにイチャイチャをエスカレートさせる――あんな事や、そんな事や……色々と描写できない光景を繰り広げて。
「き、貴様という奴は……」
アルジャルスは思わず赤面して背を向けるが。
『アルジャルス……おまえにも、本当に感謝してるんだからな』
耳元で囁く声――アルジャルスが振り向くと、カイエが優しい笑みを彼女の方に向けていた。
そんなカイエの顔を、アルジャルスも見た事がなくて……
沸騰しそうなほど真っ赤になる神聖竜に、ローズたちが気づかいない筈もなかった。
「……アルジャルスの事は、前から怪しいと思ってたのよね」
「ああ……そして今ので、私も確信したよ」
「そうね……何しろ、カイエとは昔からの戦友だしね」
「うん……それに、アルジャルスは物凄く美人だから」
ジト目を向けて来る六人――
「な……何を言うのだ! 我とカイエは悪友以外の何者でもないぞ!」
アルジャルスは生涯最高に慌てまくる。
「ああ、そうだな……アルジャルスは、俺にとって最高の悪友だからな」
カイエは本気で言っている――ローズたちとは少し意味が違うが、アルジャルスもカイエにとって掛け替えのない存在であり。それをローズたちに隠すつもりもなかった。
「カ、カイエ……貴様……」
アルジャルスは文句を言い掛けるが――様々な感情が渦巻いて、それ以上、言葉が続ける事が出来なかった。
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