第250話 迷宮の裏側


 地下二十階層のその先に広がっていたのは、さらに二十階層の地下迷宮ダンジョンで――中難易度ミドルクラス地下迷宮ダンジョンとは、とても思えないような凶悪な怪物モンスターが次々と出現した。


「とりあえず……アルメラとログナに、任せて問題ないよな?」


「何だよ、面倒臭えな……俺は強さを見せつけるとか、そんなことに興味があるほど若くないぜ?」


「何を言ってんのよ、ログナ……御主人様カイエが言ってるんだから。せいぜい頑張りなさい……ああ! 首輪を付けられて戦うのって……物凄く、興奮するわね!」


 ログナとアルメラは二人だけで、怪物モンスターたちを次々と仕留めていく。その光景に一番ショックを受けたのは――同じ魔術士のギルだった。


「嘘だろう……魔術士なのに、どうして平然と前衛で戦ってられるんだ?」


 アルメラは戦士のカバーなど全く必要としておらず。身体強化と支援系の魔法だけで、怪物モンスターたちを翻弄する。


「あら……何を言ってるのかしら? 魔法があるんだから、護衛なんて必要ないでしょう?」


 カイエは思う――エストやロザリーなら、盾役の護衛ガーディアンを召喚しているところだろうが。アルメラはそんなモノは必要はないと、自ら怪物モンスターの前に立つ。魔力量とか、どれくらい安全マージンを取るかという違いはあるが。そもそも……自分の命に重きを置かないアルメラらしい戦い方だった。


「おい、アルメラ……そのやり方は正解じゃない。おまえのやり方だと、そのうち破綻する……だけどなあ、それで良いと思っているところが、一番気に食わないんだけよ」


 面白がるように笑うカイエに――アルメラは妖艶な笑みで応える。


「だって、私はこの方法しか……カイエの気を引けないって、自覚してるのよ!」


 カイエにとっては自分など何の価値もないと、アルメラは解っているから――気を引くためなら命の一つや二つくらい賭けると、彼女は不敵に笑う。


「いや、そういうのは良いから……最後まで二人だけで行けるんだよな? 俺は暫く見てるからさ……証明して見せろよ」


「……当然だわ」


 その言葉通りに、アルメラとログナは疲れすら見せずに怪物モンスターを殲滅していく。『強さを見せつける事に興味がない』とログナが言ったように派手さはこそが……むしろ淡々と敵をを仕留める彼らに、『暁の光』のメンバーたちは驚愕していた。


「アルメラ……さん。貴方が凄いって事は解ったけど……」


 負けず嫌いのレイナも、アルメラの実力を認めていた。しかし同時に、命をコインのように賭ける彼女のやり方が理解できなかった。


「どうして……そんな戦い方をするのよ?」


「まあ、レイナには解らないだろうな……俺にだって、本質的な部分は理解できないからな」


 このまま二人に戦わせても良いが……アルメラとログナの実力と地下迷宮ダンジョンの難易度を考えれば、カイエには結果が見えていた、だったら、見てるだけっていうのも詰まらないし。ローズたちとの約束を果たすためにも、アルメラのやり方に付き合って時間を浪費したくはなかった。


「アルメラ、おまえたちの趣味にいつまでも付き合うつもりはない。ここからは――俺の好きにやらせて貰うよ」


 カイエが放つ魔力に――地下迷宮ダンジョンの空間そのものが、文字通り焦土と化していく。

 そして三十分と掛からずに、カイエは第四十階層のボスまで蹂躙した。


「いや……別に良いんだけどよ」


「あら、ログナ……別に文句なんて言う必要はないじゃない? カイエのした事に……私は興奮してるんだから! こんな面白い事……滅多に目れないと思うけど?」


 呆れ顔のログナに、ケラケラと笑うアルメラ。そして『暁の光』のメンバーたちは、完全に引いていた。


「そ、そうよね……わ、私も面白いなって、思ってたところろよ!」


 レイナは無理して笑う――このとき、ログナだけが違和感を感じていた。


「なあ、カイエ……一応、言っておくけどよ」


「何だよ、ログナ……何か気づいたのか?」


 面白がるように笑うカイエに、ログナは確信する。


「カイエ、あんたさあ……本当に性格が悪いよな? ハッキリ言えよ……この下に、何があるんだよ?」


 興奮で震える声に、アルメラがニンマリと笑う。『暁の光』のメンバーたちも反応して、マジマジとカイエを見た。


地下迷宮ダンジョンってのは地下迷宮の主ダンジョンマスターが支配してるんだから。そいつの居場所があるのは当然だよな?」


 そう言ってカイエは、床を破壊する一撃を放つ――その威力は四十階層の全てを崩壊させるほどのモノだった。


「「「きゃゃゃ!!!」」」


 レイナとアルメラ――ノーラまでが悲鳴を重ねる。そして彼らが落下した先は……深淵のような暗闇の中だった。


「ここまで辿り着くとは……我の予想の上を行く強者のようだな!」


 縦ロールの豪奢な金髪――女性型の地下迷宮の主ダンジョンマスターは精一杯の威厳を以てカイエたちを迎えるが。


「おまえさ……もっと面白い歓迎の仕方とかないのか?」


 広大な空間で、彼らを待ち構えていた地下迷宮の主ダンジョンマスターの下僕たちを、カイエは詰まらなそうに眺める。真竜トゥルードラゴン――中難易度ミドルクラス地下迷宮ダンジョンでは決して出現しない高レベル怪物モンスターには違いないが。


 カイエは『混沌の魔力』を使うまでもなく。唯の・・失われた魔法ロストマジック真竜トゥルードラゴンたちを一瞬で消滅させる。


「な……貴様は何をしたのだ?」


 何が起きたのか理解できずに、顔面蒼白の地下迷宮の主ダンジョンマスターにカイエは苦笑する。


「うちの地下迷宮の主ダンジョンマスターなら、もっと凶悪な仕掛けをする筈だけどな。おまえクラスじゃ仕方ないか……ほら、さっさと知っている情報を全て吐けよ。もし、拒むなら……どうなるか解っているだろうな?」


 カイエに脅されて――恐怖に打ち震える金髪縦ロールの地下迷宮の主ダンジョンマスターはアッサリと全面降伏した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る