第242話 千年ぶりの再会
「ログナ、貴様……裏切るつもりか?」
ロッド・ラグハーンが奥歯を噛みしめながら、睨んで来るが。
「ロッド様、俺は裏切ってなんかいないぜ。そこの若旦那に脅されて、仕方なく案内するだけだ」
「でも、おまえは私たち『神の血族』を胡散臭いと……」
「ナターシャ様、そいつは言葉の綾だ。思わず本音が出ちまったとも言えるが……」
『神の血族』たちに責められても、ログナは飄々とした顔で受け流す。
『何で私まで巻き込まれなくちゃいけないのよ』とアルメラは恨みがましい目をしていたが。カイエに指名されてしまったし、いつもの事だから仕方ないと半ば諦めていた。
「ああ、俺の言うことを聞かないなら殺す、殺す……脅されたんなら仕方ないよな。だから、さっさと案内しろよ」
適当な感じで、カイエが言葉尻に乗る。唖然とする『神の血族』たちを残して、三人は邸宅を後にしようとすると。
「待て……貴様は、いったい何者なのだ?」
ロッドが苦々しげな顔で問い掛けるが――
「おい……本当に知りたいのか?」
カイエは面白がるように笑いながら、漆黒の瞳に冷徹な光を宿す。
「知らない方が良い事もあるって……解るよな? 俺の正体を知ったら、後戻りなんて出来ないぞ」
背筋が凍り付いて言葉を失うロッドたちを放置して、カイエは『雷の神の化身』がある聖城へと向かった。
※ ※ ※ ※
すでに午後十時を回っており、聖城の門は全て閉ざされていた。
しかし、『神の血族』たちが使う抜け道があり、ログナの案内でカイエは聖城の中に入る事が出来た。
「ログナ、案内はここまでで良い。良いように使って悪かったな、こいつは礼だ……黙っていれば、バレないだろ?」
そう言ってカイエは、ぎっしり金貨の詰まった袋を渡す。
「何だよ、カイエの旦那。俺の名前を憶えていたのか……俺は構わないが、聖城の中も少しなら案内できるぜ?」
ログナは袋を受け取りながら、ニヤリと笑う。また余計な事をとアルメラは厭そうな顔をしている。
「おまえさ。その『旦那』っての止めにしろよ、気持ち悪いからさ……この先は、おまえたちの命の保証は出来ないからな。それに俺には
「じゃあ、『カイエ様』……ああ、解ったよ。あんたが良いなら『カイエ』って呼び捨てにさせて貰う」
察しの良いログナは、カイエの反応を見て正しい答えを導き出す。
「それは良いとして……なあ、カイエ。俺はこれから起きる事に興味があるんだ。自分の命の責任くらい取るから、付いて行っちゃ駄目か?」
惚けた顔で大胆な事を言う中年男に、カイエは苦笑する。面白い奴だとは思っていたが、こいつは頭のネジが外れているタイプだ。慎重に振舞っているように見えて、ここぞというときには、自分の命を
「ああ、勿論アルメラは付き合わなくて良い」
「何言ってるのよ、ログナ。ここまで来たら、同じ事じゃない」
もう『神の血族』に目を付けられてしまったし……アルメラもカイエのやる事に興味があった。
「何だよ、おまえもか……解った、好きにしろよ」
カイエはそう言って、聖城の広い廊下を歩き出す。
午後十時を過ぎているとは言え、『神の化身』の居城は『神の血族』と配下の兵士たちによって厳重に警備されている。だから、カイエたちが移動を始めると、すぐに警備兵に出くわした。
「俺一人なら、そのまま押し通るつもりだったけど……おまえら観客のために、少し派手にやらせて貰うよ」
カイエがそう言うと、光の
「どうせ外には出れないけど、遅れたら光の壁にぶつかるからな」
「侵入者だ! 何とかしろ!」
「貴様ら何をしている……そこを退け、『
『神の血族』が次々と現われて、ご自慢の強大な魔力を放ってくるが――勿論当然ながら、全く効かない。『神の血族』たちは光の壁に押し退けられて、間抜けな姿で引きずられる。
「呆れるくらいカイエの魔法は凄いわね……でも、これで私たちも共犯確定だわ」
アルメラはそう言いながら、恍惚とした表情を浮かべる――こいつも頭のネジが外れてるなと、カイエは楽しそうに笑った。
「どうやら『神の化身』の居場所が本当に解るみたいだな」
迷いなく聖城の中心部に向かうカイエに、ログナが口笛を吹く。
「何だよ、疑ってたのか……まあ、良いや。そろそろ奴の居場所に辿り着くけど……面白いものを見せてやるから、死んでも文句を言うなよ?」
当然だという顔で無言で応える二人を連れて、カイエが巨大な扉の中に押し入ると――
「これは、誰かと思えば……カイエ・ラクシエルか。随分と久しぶりだな……」
他に誰も居ない広大な空間には、
肩まで伸びた金色の髪と金色の瞳。彫の深い顔立ちは彫刻のように完璧で、光沢を放つ純白の衣装を着た姿は、
「よう、トリストル・エスペラルダ。千年ぶり――いや、おまえにとっては、二千数百年ぶりってところか?」
「我々にとっては、時の長さなど何の意味も持たない……ああ、
嘲るように笑う『雷の神の化身』トリストルに。
「ああ、俺はおまえたちみたいに傲慢じゃないからな。時間を無駄遣いしたりはしないんでね」
カイエは挑発するような笑みを返す。
空間を押し潰すほどの一触即発の雰囲気の中で――ログナは心臓が止まるほどの恐怖を感じながら、絶対に見逃して堪るかと唾を飲み込んだ。
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