第154話 鍛錬と日常
翌日から早速メリッサを誘って――黒鉄の塔の四階にある『
もっとも、カイエたちにはとっては鍛練も模擬戦も日課であり、自分たちの時間の一部を割いて、彼女に付き合うというだけの話ではあるが――
「自分の限界レベルで戦った経験なんて、メリッサには無いだろう? 相手が弱い奴ばかりだったから、おまえはセンスだけで勝って来れたんだよ」
空間拡張された
「おまえの動きは無駄が多過ぎるし、次の動作への入り方も雑なんだよ。洞察力も感応力も鈍いし、ハッキリ言って基礎すら出来ていないレベルだな」
カイエの辛辣な評価を――メリッサは真摯な表情で受け止める。
「あれだけ実力の差を見せ付けられたら、グウの音も出ないよ。カイエの言う通りなんだろう。これまで僕は、どうやら自分が強いと思い込んで、胡座を掻いていたようだな」
自分の非は素直に認めるが――だからと言って、過去を悔いるよりも、一歩でも前に進みたい。
そんな風に前向きで直向きに考えたから、メリッサは今、ここに立っている。
「まあ……おまえを甘やかす気はないけど。センスだけでも、それなりに戦えたんだからさ。しっかり基礎を覚えれば、ノビシロがあるって事だよ」
カイエは
勿論、いつもの漆黒の剣ではなくて、二級品の武骨な鉄製だ。
それに対してメリッサは、カイエが指示したようにフル装備だった。愛剣である銀製のバスタードソードに、ルーン文字が刻まれた紫のハーフプレート。
何れも高価なマジックアイテムであり、カイエの装備と比べるべくも無いが――自分の方が有利過ぎるとか、そんな剣で相手になるのかなどと、いちいち文句を言うほどメリッサは愚かではない。
「とりあえずは、今のおまえに出来る最高の攻撃を仕掛けて来いよ。何処が駄目なのか、全部指摘してやるから」
完全に上から目線の台詞だが――どういう訳か、嫌味など微塵も感じなかった。
カイエの漆黒の瞳は静に、メリッサの動きを観察している。
「ああ、解ったよ……これが、今の僕の全力だから!」
メリッサは一気に加速して、間合いを一瞬で詰める。
宣言通りの最高の一撃を放つが――次の瞬間、彼女の身体は宙を舞っていた。
※ ※ ※ ※
それから毎日、カイエたちは代わる代わるメリッサの鍛練に付き合ったが――勿論、それだけに
ガルナッシュの生活や文化を知ろうと、彼らは積極的に街に出掛けた。
鍛練と模擬戦だけは黒鉄の塔で行ったが、宿泊場所についても『塔の中の方が快適なのに!』というエマの反対意見を押し切って、市街地にある宿を取った。
もっとも……金には困っていないし、
「無駄遣いとか言うなよ。派手にやって餌を蒔くのも悪くないだろう?」
「あら、私だってお金をケチる気はないわ。貰えるものはキッチリ貰うけど、意味のある使い方なら、止めたりしないわよ」
魔法の実力についても隠す必要など無いからと――カイエはフロアの室温と湿度を自動調節するマジックアイテムを持ち込んだ。
「これくらい快適だったら、全然文句なんて無いないよ!」
宿屋の従業員たちが唖然とするほどの快適空間に、エマもすっかり満足していた。
「うん……やっぱり、エストの料理は最高だよね!」
トルメイラ名物の濃い味の料理に飽きたら、フロアにあるキッチンで、エストが手料理を作ってくれるのだ……文句などある筈がない。
カイエたちは連日、トルメイラの街中を巡って、観光とショッピングと料理を楽しんだ。
勿論、彼らの目的は『魔族について知ること』だから、これも遊びではなかいのだが――
「ねえ、みんな。ちゃんと楽しみなさいよ? 上辺だけの知識をかじっても、魔族を理解できる訳が無いんだからね」
アリスが言うのも最もで、みんなも堅苦しい事を言う気など無かったから――彼らはトルメイラの街を満喫した。
「ねえ、カイエ……このドレス、どうかな?」
背中が大きく開いた赤いドレスを試着して――ローズが軽やかに、くるりと一回転する。
「私の方も……どうだろうか? こういうのは……ちょっと、恥ずかしいんだけどな」
ローズとは色違いの青いドレスを纏うエストは、強調された胸元に頬をピンクに染める。
彼らが立ち寄ったのは中心街にあるブティックで――上級魔族御用達の店には、表面積が狭い服が数多く並んでいた。
「これだけ見えちゃうと……私も、ちょっと恥ずかしいかな」
膝上十五センチのミニスカートを手にとって、エマが赤面する。
「トルメイラの服って……みんな、こんななのかな?」
「そんなことないでしょ? 街中で見た感じだど、ガッシリとした服を着てる人が多いわね。こういう独特なデザインを扱う店もあるって事よ……私たちの国と同じようにね」
エマが手に取っているのと同じくらい短いレザースカートを試着しながら、アリスは鏡の前でポーズを取る。
「うん……悪く無いわね。ねえ、カイエ……感想を言ってみなさいよ?」
「ああ……みんな、凄く似合ってるよ。アリスも――ホント、魅力的だ」
しれっと真顔で応えるカイエの不意打ちに――
「カ、カイエのくせに……馬っ鹿じゃないの!」
アリスの顔は、火が出るほど真っ赤になった。
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