第115話 プレゼント
そして、城の広間では、アイシャを溺愛する困った奴らの総本山ヨハン・シルベーヌ子爵が待ち構えていたのだが――
「これはこれは、ラクシエル殿に、勇者パーティーの皆さん。アイシャのために、わざわざ来て貰い、深く感謝する」
アイシャに事前に釘を刺されたのか、はたまた毎日アイシャと接している故の余裕なのか……シルベーヌ子爵の対応は、至って大人しかった。
「ヨハン、おまえ……いや、何でもない」
カイエは拍子抜けした感じで、乾いた笑いを浮かべるが――まあ、騒がしくないのは良い事だと思い直して、アイシャの方に向き直る。
「とりあえず、みんなプレゼントを用意してきたみたいだから。先に渡しておくか?」
カイエに促されて――勇者パーティーの面々は、アイシャに思い思いの品を手渡していく。
ローズが用意したのは薔薇の形をした髪飾りで、エストは銀の錫杖。エマは金の短剣と、ここまでは至って普通の品だったが……
「アイシャ……私のプレゼントは、他の人には見せちゃ駄目よ」
レースの包みを手渡しながら、アリスはアイシャの耳元に囁く。
「アイシャ、誕生日おめでとう……これはね、○○○○○だから」
その瞬間――アイシャは湯にのぼせたように真っ赤になった。
「ア、アリスさん……あ、ありがとうございます……」
「アイシャ……いったい、どうしたんだ?」
心配そうに駆け寄ろうとするシルベーヌ子爵に――アリスは黒い刀を引き抜いて、鼻先に突き付ける。
「父親だからって……あんまり詮索すると、嫌われるわよ? それでも構わないなら、どうぞ、ご自由に……」
危険な香りを漂わせるアリスの笑みに――シルベーヌ子爵は、どうにか思い止まる。
「あ、ああ……そうだな。皆さん、アイシャのために……本当に、ありがとう」
そうは言っても女子同士のプレゼントだからと、シルベーヌ子爵はタカを括っていた事を――彼は後々後悔することになるのだが、それはまた別の話だ。
「ねえ……カイエも、プレゼントを用意してるんだよね?」
エマに促されて、
「まあ、そうだけどさ……」
カイエは微かに笑み浮かべながら、ゆっくりとアイシャの前に進み出る。
「アイシャ、誕生日おめでとう」
「カ、カイエさん……あ、ありがとうございます……」
この時点で、アイシャの顔は真っ赤になっていた。
最悪の状況から救い出してくれて、この夏を一緒に過ごした年上の少年――自分を『可愛い』と言ってくれた彼が誕生日に来てくれただけで、ドキドキが止まらないが……
カイエが差し出したモノが、トドメを刺す。
カイエのプレゼントは――オープンハートのシルバーのリングだった。
ピンク色の小粒のダイヤモンドが、ハートを縁取るようにが埋め込まれいる。
「前にも似たようなモノを渡したけどさ――こいつを使えば『伝言(メッセージ)』が一日五回まで使えるから。何か面倒事が起きたら、とりあえず連絡しろよ」
カイエは別に他意があった訳ではなく……オープンハートの形にしたのは、アイシャに似合うと思ったからであり、指輪にしたのも持ち運ぶのに便利だという理由からだ。
だが、しかし――
「「「「「「「えー!!!」」」」」」」
この場にいるカイエとアイシャ、そしてロザリー以外の全員が、抗議の声を上げる。
「カイエ……これって、どういう事?」
「あ、いや、だけど……さすがに、これは……」
「あんたねえ……何考えてるのよ?」
「カイエ……アイシャにだけ……狡いよ!」
勇者パーティーの四人は、絶対零度の視線を向ける。
「え? 何だよ……おまえら、変な誤解はするなって。単なる誕生日プレゼントで、深い意味なんて無いからさ……なあ、アイシャ。おまえも、そう思うだろう?」
「……!!!」
カイエの気楽さとは正反対に――アイシャは沸騰していた。
「お、おい、おまえさ……」
「ラ、ラクシエル殿! こ、これは……そういう事なのか!!!」
号泣しながら立ち塞がるシルベーヌ子爵に、カイエは顔を引きつらせる。
(えっとー……俺って、とんでもない地雷を踏んだのか?)
このとき――カイエの右手をガシッと掴む小さな手があった。
「カイエ様……このロザリーちゃんだけは、カイエ様を信じていますわ!!!」
力強く宣言して――ロザリーはアイシャに向かって、勝ち誇るような笑みを浮かべる。
「何を勘違いしてるのかしら……この○○○は!!!」
広間に響き渡る少女の声に――この場にいる者たちは、それぞれ異なる反応を示す。
「おまえさ、適当な事を言ってるけど……後で後悔するなよ?」
カイエはカイエらしく、冷徹な光を漆黒の瞳に宿して――
((((しまった……ロザリーにしてやられた(わ)!))))
ローズたち四人は、がっくりと膝を突く。
(((そうか……私の勘違いなのか!)))
シルベーヌ子爵と二人の騎士は、安堵の息を漏らすが……
(そう言うことね……解ったわ。受けて立つから!)
アイシャはロザリーを正面から見据えて――青い瞳に灼熱の焔を燃え上がらせていた。
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