第105話 地下迷宮にて
『ギャロウグラスの
「転移しなかったって事は――みんなも始めて来たって事だよな?」
一度訪れて
「そうだ。私たちも勇者パーティーとして本格的に活動を始めてからは、
魔王の軍勢との戦いに忙しく、勇者バーディーが攻略に挑まなかった事が、未踏破の
「カイエもアルペリオ大迷宮のように、かつての時代に訪れた事があるという訳でもないのか?」
「ああ。あの頃の俺は、世界の秘密を解き明かそうと思っていたから、結構な数の
神の化身と魔神との戦いで――世界から消滅した
「エストもカイエも随分呑気に、
アリスが呆れた顔で口を挟む。
「あんな風にカイエが挑発したんだから、絶対に追い掛けて来るわよ」
「え? でも、今から追い掛けて来ても、私たちに追い付くのは無理じゃない?」
エマが素朴な疑問を口にする。
冒険者たちを馬鹿にするつもりはないが――彼らが自分たちよりも速く、迷宮の怪物(モンスター)を撃破できるとは思えなかった。
「エマ、何言ってるのよ……あんたも
二点間を移動するだけと、機能は非常に限定されているが、魔力を消費することなく誰でも利用できる。
「そっかあ……この
「特にここは……広くて複雑な構造なんでしょ? 普通に攻略してたら、先回りで待ち伏せされても不思議じゃないわよ。そうなったら……カイエ、どうするつもりよ?」
アリスはジロリと横目で睨むが――カイエは何食わぬ顔で応える。
「まあ、十分あり得る話だけど……そのときは、エストの新しい魔法の出番かな?」
「そうね。エストなら、きっと完璧にやってくれるわよ」
ローズがニッコリと笑って、ハードルを上げるが――
「そうだな……彼らを傷つけずに足止めできれば、問題ないだろう?」
エストは余裕な感じで応じる。
「まさか……カイエみたいに、全員麻痺させる訳じゃないわよね? そんなことをしたら、怒りに油を注ぐようなものよ?」
「いや、さすがに二番煎じをするつもりはない。もう少し……彼らを黙らせる効果がある魔法を使うつもりだよ」
そんな風にお喋りをしながらも――彼らは手足だけは動かし続けており、僅か十分で迷宮第二層までを完全攻略した。
迷宮内の他の冒険者たちが、真剣に
それでも――これまでの
「こういう色も……素敵ね! ねえ、カイエ……どう、私に似合ってるかしら?」
今日のローズは白銀の鎧ではなく――深紅のハーフプレートを纏っていた。
「私の鎧も……ホント、カッコ良いよね! カイエ、ありがとう!」
エマは水色の
勇者バレしないように、二人が装備を変えたように見えるが……いつも全力の二人が、中途半端な鎧を身に付ける筈もなく――
そう、魔法を無駄遣いすることなら右に出る者がいないカイエが――ローズとエマのいつもの鎧を、幻術を使って別の姿に変えているのだ。
無論、カイエがやるのだから『唯の幻術』である筈もなく――
「エマ――」
「うん……いっくよー!」
二人の動きに合わせて――決して不自然に見えないように、鎧の動きも音も完璧に再現する。
その細かな演出こそが……カイエのカイエたる所以だった。
武器の方も同様であり――神剣アルブレナと聖剣ヴェルサンドラの動きを完璧にトレースして、全く形状の異なる漆黒の武器に見せている。それでも、不自然さなど微塵も感じさせなかった。
しかも、形状が変わってしまうと距離感がブレるため、使っている本人には色だけ変えて、形は元通りに見えるいう配慮もバッチリだ。
白銀の鎧に光の剣と、純白の鎧に金色の大剣――あまりにも有名なツートップの装備さえ変えてしまえば、口伝でしか情報が伝わらない世界なのだから、勇者パーティーであることを隠すのは、案外簡単だった。
「ホント、カイエって……無駄な事に全力を注ぐのが好きよね?」
正体を隠すなら、変装すれば済むことだし、カイエなら二人を説得できるだろうと、アリスはジト目をするが――
「いや……アリスにそんな事を言われると。私も新しい魔法を使いづらいな」
しれっと笑っているカイエの隣で、エストがバツが悪そうな顔をする。
「今日、私が試そうとしている魔法も……かなり趣味に走ったものだからな」
「エスト……あんたも、カイエに毒されたわね」
アリスはジト目で見ていると――
「あのね、私……良いことを思いついたんだけど!」
突然エマが、キラキラ目を輝かせながら割って入る。
「コリンダの冒険者の事だけど。私たちが勇者パーティーだって教えれてあげれば、さっきの人たちも、納得するんじゃない?」
考えてみれば、これが一番穏便な方法だと、エマは得意げに言うが――
「却下だな」
「ええ、却下よ」
「そうね……当たり前じゃない」
カイエとローズとアリスが、口を揃えて否定する。
「え……なんで? 私……何か変なこと言った?」
戸惑うエマに……アリスが肩を抱き寄せて、ローズは優しく微笑み――カイエは、悪戯っぽく笑う。
「そんなことをしたらさ……面白くないだろう?」
そんな彼らに――エストは呆れた顔で、溜め息を付いた。
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