第26話 旅の準備
「これで、またみんな一緒だね!」
エマやアリスまで同行することになって、ローズは素直に喜んでいた。
だったら、まずは何処に行こうかと、エストとエマと三人で早速話をしている。
「何だよ……結局、勇者パーティー勢揃いってことか?」
そんな彼女たちを横目に、したり顔をするカイエを――アリスがジト目で見ていた。
「カイエ、まさか……『これで俺のハーレム確定!』とか、思ってるんじゃないわよね?」
アリスの突っ込みには、予想以上の効果があった。
「何、馬鹿言ってんだよ! 違うから! そんなこと、絶対にあり得ないから!」
激しく否定するカイエに、アリスは呆れた顔をする。
「あんたねえ……何もそこまで否定しなくても……」
「いやいや、これだけはハッキリさせておかないと! 俺はそんなこと、全く一切考えてなからな……」
カイエは顔を引きつらせながら、視線でアリスを促す。その先には――
ニッコリと微笑みながら、目だけは笑っていないローズの姿があった。
「……アリス? ハーレムって……どういう意味かしら?」
ローズが噴き上げる激しい感情の炎に――アリスは、かつてないほどの恐怖を感じていた。
※ ※ ※ ※
それからローズの機嫌が直るまでに小一時間ほど待ってから――
五人は旅に必要な品を揃えるために、買物に出掛けた。
カイエとローズは先日も同じ目的で出掛けていたが――あれは『買い物という名前のデート』であり、刺客とのイザコザもあったから、買い物そのものはあまり進んでいなかった。
勇者パーティーの面々も買物ということで、いつもの完全装備から普段着に着替えていた。
だから、先日のパレードのせいもあって広く面が割れているローズ以外の三人も、格好が違うだけで意外と解らないらしく、本人バレはしていないのだが――彼女たち本来の魅力が、思わず人目を引き付けてしまう。
「とにかく、まずは食材に調味料、あとは飲み物の確保をしないとな? 旅の間、味気ない食事をするなんて、みんな嫌だろう?」
エストは飾り気のないリクルートスーツのような姿だった。
しかし、輝くような金髪に碧瞳の知的美人が着ると――シンプルな服装の方が却って目立ってしまう。
「それよりも私は……やっばりお菓子かな? 旅は長いんだから、いっぱい買っておかないと!」
エマは自分の瞳の色と同じ青の襟つきのシャツに細いズボンというボーイッシュなスタイルで、足元も乗馬靴でキメていた。
さらには銀色の髪に日に焼けた肌というセットだから――本人の性格を知らない街角の少女たちは『……お姉様!』などと溜息まじりに呟いている。
「あんたたちねぇ……言ってることが、即物的過ぎるわよ?」
アリスは肩紐のないトップスにスリットの入ったロングスカートという、如何にも煽情的な格好をしていた。艶やかな黒髪に黒い瞳の彼女に妖艶な笑みを浮かべられたら――大抵の男は堕ちてしまうだろう。
「せっかく戦いとは関係なしに旅行に行くんだから……もっと可愛い服を着るとか、色々と楽しんだら?」
勇者パーティーは世界中を巡り歩いたが――それは全て魔族の軍勢と魔王を撃ち滅ぼすための『行軍』だった。
だから、彼女たちはいつでも戦えるために完全武装で、旅を楽しむという発想すら持っていなかった。
だけど、そんな日々もようやく終わり――今度は自分たちで楽しむことが許される旅に出るのだから、もっと楽しみなさいよとアリスは言っているのだが――
「えー! 可愛い恰好とか、全然わからないよ!」
聖騎士一家の末っ子が不満そうに言と、
「そうだな……そういうのは、私も苦手だな」
史上最強の魔術師が、当然だろうと言う顔で乗っかった。
「へえー……二人とも、そういうこと言うんだ?」
そんな二人の様子に――アリスは意地の悪い笑みを浮かべる。
「男ってさ……何だかんだと言っても、可愛い女が好きなのよね? 例えば、あんな感じの……」
アリスが視線で促す先には――ローズがいた。
「何だか……みんな楽しそうね?」
鮮やかな赤い髪と褐色の瞳のローズは――バラの刺繍を施した白いワンピースにアースカラーのカーディガンという『ゆるふわ系』の格好をしていた。
そんな姿で、恋する乙女の彼女が眩いばかりの笑みを浮かべると――『真夏の美少女』という言葉がピッタリの破壊力抜群の可愛さになる。
「ローズ……何と言うか、その……」
「うん……そうだね。今日のローズは……」
女子二人も思わず見とれてしまうが――
(誰かさんも……きっと同じように思うわよ? あーあ……あんたたちだって頑張れば、同じくらい可愛くなれるのになあ?)
アリスの悪魔のような囁きに――エストとエマは弾かれるように反応する。
「ア、アリス! 実は私も、新しい服が欲しいと思っていたんだ!」
「あー! 奇遇だね、エスト! 私も可愛い服が欲しいって思ってたの!」
何が起きたのか、慌てて服を選びだした出した二人に――ローズは不思議そうな顔で首をかしげる。
「アリス、おまえってさ? この状況を穏便に済ませたいのか、掻きまわしたいのか……本当はどっちなんだよ?」
苦笑するカイエに――アリスは呆れた顔をする。
「……はあ? あんたがそれを言うの? ……そんなの、私はどっちでもないわよ? みんなが自分の気持ちに素直でいて欲しいし、そのせいで誰かが不幸になって欲しくもない……これが私の正直な気持ちよ!」
自分でも都合が良いと思うけど――アリスは本気だった。
「なるほどね……まあ、そういうのも悪くないんじゃないか?」
カイエは他人事のように言うが――
「だから……カイエ? あんたは何を言ってるのよ?」
アリスはカイエを見据えて――勝ち誇るように言う。
「思わせぶりな態度を取った時点で――あんたは加害者決定だから? この私に全部知られた以上――せいぜい覚悟しておきなさいよ!」
そんな風にアリスに宣言されて――カイエはどうしたものかと、頬を掻いていた。
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