61.廃マネキン工場探索②(怖さレベル:★★☆)

「……から、今夜ここ……」

「マジ……つーか……バレんじゃ……」

「……だめし……連れて……」


聞こえてくる声は割合若く、訪れた人数は三名ほどのようです。


「(兄貴……これ、おんなじ目的の人じゃ……)」

「(いや……肝試し、って聞こえたぞ?)」


互いにコソコソと姿を現すかどうかを相談している間に、

その人影たちは工場の中へ入ってきてしまいました。


「(いや……これは、スキを見計らって帰ったほうがいいな)」


兄がやってきた三人の姿を確認し、即決しました。


というのも、その三人組。

パッと見、二十代くらいの男性たちなのですが、髪は右から金色、緑色、白色。


服装はいまどき見ないくらいのロック調のデザインで、

見るからにチンピラといった風貌です。


「(にしても……もし肝試しなら、なんで夜じゃなくってこんな昼に……)」


おれたちが疑問を抱きつつ様子を伺っていると、

彼らは大声でしゃべり始めました。


「チッ……んだよ、ただゴミが転がってるだけじゃねーか」

「最強の心霊スポット……とか言ってたけど、ただ汚ねぇだけだな」


ガンッ


金髪男が、なんの躊躇もなく足元のマネキンの破片を蹴り飛ばしました。


「おいおい、あんま散らかすなよ。今日の夜、また来るんだから」


緑髪男がたしなめるように言って、キョロキョロと周囲を見回しています。


三人の振る舞いを見るに、金髪がリーダー格、白髪がそれの取り巻き、

緑髪も同じで、しかし他の二人に比べると気弱な性格のようでした。


「つーか、確かここ地下室があるって話だし、そっちのチェックが先だろ?」

「ハハッ、女連れ込めそーな場所がありゃいいな」


まさか人がいるとは微塵も思っていないらしく、

彼らは周りをはばかることもなくベラベラとしゃべっています。


「(女連れ込むって……そういうことかよ)」

「(ますます見つかったら大変だな……)」


車をスーパーの方へ置いておいたのが幸いしました。


彼らが地下へ行ってくれればその隙にさっさと逃げ出してしまおう、

と兄と彼らの動向を伺っていると、


「わ、オイ、見ろよコレ」

「あー?」


男たちが、何やら床に散らばるマネキンをつついています。


「ご立派にまつ毛までついてるぜ。美容系で使うやつかな」

「これ、入口にズラーっと並べといたら、ナンパした女、ビビるんじゃねぇ?」


どうやら、頭部のみのマネキンを転がしているようです。

素手で触れたくないのか、ゴン、と足で動かしている姿は不敬そのものです。


(……あれ?)


しかし、おれは妙な気分で首を傾げました。


さっき写真撮影をしていた時は、首から下、

いわば胴体部分しか見当たらなかったような気がしたのです。


まぁ、これだけごちゃついている工場内、

死角に転がっていた可能性は大いにありますが……。


「(おい、トウマ。そろそろ逃げる準備しとけよ)」

「(う、うん……)」


彼らがワサワサと地下への扉を探っているのを横目に、

おれたちは今か今かと飛び出す準備をしていると、


「おっ、これじゃね?」


白髪の男が、工場の端の方で床を足でこすっています。


「おーっ、それっぽいな」

「つーか、ホコリとかヤベェんじゃねぇの」


男たち三人がデカい声で話し合っているのを横目に、

兄貴とおれはそろりそろりと足音を殺しつつ外に出ようとしました。


(あっ)


パキッ


うっかり、勢いよく枝を踏み込んでしまったのです。


「ん? なんか音したか?」


今にも地下へもぐろうとしていた緑髪の男が、顔を上げました。


「(伏せろっ)」

「(わっ)」


兄貴が慌てておれごと身体を地面に伏せ、ジッと息を殺します。


「鳥だか、そこらの動物じゃねぇの」

「……かなあ?」


そのまま石のように動かずにいれば、男たちは気にしないことにしたらしく、

カンカンと音を立てて階段を下りていきました。


「……フー……ヒヤヒヤさせてくれるなぁ」


兄が苦笑いで身体を起こし、おれの手をひきました。


「悪ぃ」


おれも兄も全身落ち葉だらけのひどいあり様です。


「いやー、もとはと言えば連れてきた俺の責任だしなぁ。

 ま、早く帰ろうぜ」


兄はこちらを責めることもなく言い放ち、

そっと工場を抜け出して山道の方へ向かいます。


「それじゃさっさと……ぅおっ」

「え、何?」


元気よくスーパーまでの山道を下りようとした兄が、

小さく呻いて飛びのきました。


「……来るとき、こんなん無かったよな?」


兄は困惑したような表情のなかに一抹の恐怖をにじませて、

そっと工場の入り口を指さしました。


「うわっ……」


おれはなにも言えず、ただ後ずさりました。


その工場の入口に。


わさわさと積み重なるようにして、

マネキンの手首が積み重なっていたのです。


「え、あ、あいつらが……?」

「いや……陰からジッと見てたが……そんな動きは無かったな……」


ヒヤリと冷たい汗が背筋を伝うのを感じつつ、

おれたちはイヤな想像に黙り込みました。


「……帰るか」


兄もそれ以上それに言及することはなく、

我々はあの三人組が戻る前にと、

そそくさと車を停めてあるスーパーへと逃げ去ったのでした。


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