33.屋根裏部屋の不思議な小箱①(怖さレベル:★☆☆)

(怖さレベル:★☆☆:微ホラー・ほんのり程度)

『20代男性 片岡さん(仮名)』


開かずの間や、玉手箱。


開けてはならないといわれるものって、

なぜかとてつもく心惹かれるものですよね。


これからお話しするのは、オレが、まだ幼い頃、

そんな子どもゆえの好奇心から起こしてしまった、

ある事件のことです。


オレには、小学生の時から

仲の良かったコースケ君という友人がいました。


アパート暮らしのうちとは違い、

彼は一戸建ての庭付き住宅。


互いの家を行き来して遊んではいたものの、

必然的に彼のうちへお邪魔する頻度の方が高かったのです。


彼と遊ぶのはもっぱらTVゲームがメインでしたが、

小学生らしく、外の空き地で他の友人を呼んで走り回ったり、

彼の広いうちの中でかくれんぼをするコトもありました。


彼のうちは一戸建てという名称の中でもひときわ広く、

当時は珍しい三階建て。


かくれんぼともなると、

家を知り尽くしているコースケ君には

なかなか敵いませんでした。


そしてその日、いつものように彼の部屋へと招かれたオレは、

珍しくTVゲームを端にどかしたコースケ君の一言に、

思わず目を輝かせました。


「なー片岡! 秘密基地、見つけたぜ!」

「えっ……コースケ君、いつの間に!」


この辺りの市街地は、

山も遠いし、海はないし、

おまけに公園だって狭いところばかり。


小学生の男子のおメガネに適うような場所など、

なかなかありませんでした。


「それが、意外なトコロにあるんだよ。

 なんと……ジャーン! うちの屋根裏部屋です!」


バッ、とヒーローポーズのように気取った彼の指先が、

真上を指し示しました。


そこは天井、

三階にあった彼の部屋の頭上です。


「や、屋根裏ぁ……?」

「そーだよ! こないだ、本棚のトコに足かけて、

 どんな高さから飛び降りられるか実験してたらさ、

 頭、天井にぶっつけちゃって。そん時、入口みたいなの見つけてさ」


常日頃からヤンチャ坊主で、学校でも階段から飛んだり、

砂場に突撃したりと向こう見ずなコースケ君です。


自宅でも暴れまわっているのは想像できましたが、

そんな場所まで自分で見つけてしまうとは。


「入口って……中、入れるの?」

「ホコリ、すっごかったけどなー!

 でも、虫もネズミもいなかったぜ」


グッと親指を突き出す彼に、

オレはウキウキと尋ねました。


「でも、手も足も届かないでしょ?

 どうやって中に入るの?」

「こないだは本棚を伝ってったんだけど……今日はバッチリだぜ。

 うちの倉庫から、使ってないっぽいハシゴかっぱらってきた!」


と、コースケ君は脚立を取り出し、

部屋の中央で広げました。


彼の言う入口、とやらは一見目立たぬようになっていて、

コースケ君は慎重に脚立の位置を調整しています。


「秘密基地、っていっても、

 まだ全然探索できてなくってさ。……行くだろ?」

「うん、行きたい!」


ノリノリのコースケ君はさっそく脚立に足をかけ、

すいすいとその卓越した運動神経を発揮して上に登っていきます。


「ほらー、早く来いよ!」


ひょいっと天井に消えた彼の声が、

既に楽しそうに弾んでいて、オレはあわあわと後に続きました。


「ちょっと待って……っと、うう」


あまり運動が得意でなかったオレもなんとか脚立を伝い、

ゆっくりとその天井に顔を差し込みました。


「わーっ、こうなってるんだぁ!」


その目前に広がった光景に、

思わず感嘆の声が上がりました。


天井の板を一枚隔てたその上は、

小さな明かり取りようの窓から差し込む僅かな光で薄暗いものの、

それが返って特別な空間であるかのような、

不思議な世界が広がっていたのです。


なにせ普段はアパート暮らし。


五階建てアパートの二階、

という中途半端な階層に住んでいる自分にとって、

天井をガンガン突こうものなら、仕返しに上の住民から

床をドンドン叩かれてしまう、というのが当たり前でした。


ですから、屋根裏などというものは

まるきり別世界のものであったのです。


「すげぇだろ」


コースケ君はニヤニヤと自慢げな表情を浮かべて、

キョロキョロと周囲を見回すこちらを置き去りに、

さっさと端の方へと歩いて行ってしまいました。


「ま、待ってよ、ねぇ」


ホコリばかり、と言っていましたが、

壁際にある小さな窓で換気でもしたのか、

想像していたよりも汚れはありません。


まだ日も落ちていないからか、

明かり取り用の窓から入る光のおかげで、

暗さもあまり気になりませんでした。


今まで使われていなかったのでしょう。


荷物自体もほとんど存在せず、

秘密基地としてカスタマイズするにはもってこい、

と言わんばかりでした。


「コースケ君、そんな端でなにしてんの?」


オレは、広い屋根裏の隅でなにやらごそごそしている

彼が気になり、ゆっくりと彼に近づきました。


「みろよ、片岡。これ、スゲェだろ」


すると彼は、そこの屋根裏部屋の奥に

ポツンと置かれていた、小箱を持ち上げて見せました。


「うわぁ……なに、それ」


それは長方形で、大きさは学習ノートより

一回りくらい小さいサイズ。


色は真っ黒で、がっしりと頑丈で、

小学生でもわかるくらいに高級な箱であるとわかりました。


そして何より、一番目を引くのは、

その表に彫られた彫刻です。


「カッコイイよな、これ!」


白い肌に赤い口、

落ちくぼんだ黒い瞳。


クワッと口をかっ開いた、

見るも恐ろしい般若の面。


それが、その箱の表層に、

しかと刻まれていたのでした。


「コースケ君……これ、なに?」

「わかんねぇ! でもこれ、開かなくってさぁ。

 でもめっちゃヤバそーだろ? 中、なにが入ってるんかなぁ」


ウキウキと箱を揺する彼に、

オレもつられて興味をそそられて、


「なんか音とかしないの?」

「んー……いや、しない。

 けっこう軽いし……」


カコカコと箱を振るコースケ君本人も、

しきりに首をかしげています。


「まぁ、これもいつかは開ける!

 それとは別に、ここ秘密基地にしよーぜ!

 広いし、あんまモノも無いしっ」


雑に箱を床に放って、

彼は両手を広げて宣言しました。


電灯なんて無いし、明かりは上にある

狭い三角窓から差し込む光だけ。


薄暗くて、少しだけホコリっぽくて、

でもそんなの気にならない、

むしろそれがスパイスとなって、

オレたちはここを秘密基地にすることを決めました。


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