27.スズメの報復①(怖さレベル:★☆☆)

(怖さレベル:★☆☆:微ホラー・ほんのり程度)


あの、自慢するわけじゃあ無いんですけど……

うち、昔ながらの日本家屋で。


やたらと庭が広いので、

野鳥とか、ちょっとした獣が紛れ込んだりとか、

よくあって。


特に、うちは母が余ったお米粒とかを庭に撒いたりして、

スズメとか、名前のわからないような鳥とかが、

よくおこぼれに預かろうとやってきていました。


僕も小学生ながら、そんな母のお手伝いで、

米粒を撒いたり、麦をあげたりして、

小鳥たちのことを一緒に世話をやいていました。


中でも、そのスズメの群れの中に、

真っ黒い子が一匹だけ紛れていて、

クロという単純な名前を付けて、

特にかわいがっていたんです。


しかし、ある日のこと。


朝目が覚めて、母に言われていつも通りに

ご飯を庭へ撒いたのですが、

その日はやけに鳥たちの集まりが悪いのです。


おかしいなぁ、なんて思いながら空を見上げていると、

ようやくいつものスズメたちがやってきたのですが、


「あ……クロ!」


真っ黒いその羽の端っこ。

そこに滲む赤い色。


フラフラと飛んでいる何匹かのスズメたちは、

皆、どこかケガを負っているのです。


「お……お母さん!」


僕が慌てて母を呼ぶと、

難しい顔をした母が、

庭でうずくまっている鳥たちの様子を見て、


「これ……たぶん、襲われたんだよ。

 鳥にか、人にか……わからないけど」


と言い、どこかの施設へ連絡し始めたのです。


僕はといえば、傷つきながらも必死で

エサをついばむスズメたちの姿に、

ギュッと胸を締め付けられるような痛みを覚えました。




その後わかったのは、

あの鳥たちは、

人によって傷つけられたらしい、ということです。


最近、夜間などに近所の窓ガラスが割られたり、

犬や猫がケガをしたりという事件がちょいちょい起こっていて、

おそらく同一犯であろうと。


飛んでいる鳥をどうやって傷つけたのかといえば、

犯人はBB弾の銃を使用して、

鳥たちを撃ったのだというのです。


窓ガラスや、動物たちも同様の手段で傷つけられており、

見回りなどを強化しようという話が出ていたというお話でした。


学校の登下校時にも、

十分注意するようにと校長先生の話が出て、

クラスのみんなもザワザワと怖がっていました。


でも、僕の気持ちは真逆で。


今となってはバカだったと思いますが、

犯人を見つけてとっちめてやろう、

と思ってしまったのです。




僕はそれから、

うちの倉庫に放置された木刀を片手に

自称パトロールを始めました。


犯人は深夜に活動しているといわれているのに、

僕が動けるのはせいぜい日が暮れるまで。


今思えば無謀だし、子どもというのは

本当に怖いものなしです。


学校では相変わらず注意喚起がなされ、

放課後に警察官らしき人の姿も増えていましたが、

親にも秘密にしながら、

僕の放課後パトロールは続いていました。


「……わ、もうこんな時間だ」


木刀を背負って町中を歩き回り、

何の収穫もなく、その日も太陽が沈もうとしていました。


「……ぜんぜん、仇取れそうにないな」


うちにやってきていたスズメたちは、

保護しようと近づいてもすぐにどこかへ飛んで行ってしまって、

あれから何度エサをばらまこうとも、

クロたちの姿すら見かけなくなってしまいました。


母は「きっとどこかで生きてるよ」なんて慰めてくれましたが、

いくら小学生といえど、そんな慰めがウソということくらい、

よくわかっていました。


アレだけのケガを負った野生の鳥が、

いったいどうなるのか、なんて。


「……ッ」


僕は、ギュッと木刀の柄を握りしめ、

唇を引き結んで、少し速足で駆け出しました。


涙が浮かぶ目を瞬かせ、

勢いそのままに曲がり角を曲がろうとしたその時。


「わっ」

「う、っ」


歩いてきた男の人にぶつかってしまったのです。


「あっ、ご、ごめんなさい」

「チッ……気ぃつけろ、ガキが」


舌打ちをし、冷たい目つきでこちらを睨んだその人を

身を竦ませながら恐々と見送ってから、ハッとしました。


目を落とした足元に、バラつくBB弾。


その特徴的な黄色い玉は、

さきほどまでの地面には確かに無かったものです。


「……あ」


もしかして。


僕の脳裏に浮かんだ想像は、単純なものでした。


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