2ー90★一瞬の出来事
『んー…、何があるのでしょうか…あれではまるで…』
そう言いながら彼女は出かかった言葉を飲み込んだ。
性格的なこともあり彼女は仲間割れなどといった類いの考えは、絶対に考えないようにしている。
とは言っても、彼らは彼女が部屋から出てきて確認する間、ずっと一緒の姿勢のままだ。
まさか一晩中このままということはないとは思うが、それでも当分はこのままの姿勢というのはじゅうぶんに考えられる。
彼らとて何か理由がなければ、ずっと同じ姿勢を保っていることもないだろう。
彼女の中で理由と姿勢の二つがいつまでも理解できない…
彼女としても今の立場を考えると待つのが最善というのは思っていても、せめて彼らが何故そういうことをしているかという理由や周囲がどういった状態なのかに関しては興味があるだろう。
時と場合に依っては彼女自身にも関係することだけに…
そこで彼女は考えた。
恐らく二人が静かなことから、外にそれほどの危険というのは考えられないはず。
それであれば、今彼ら二人がいる方の反対側の窓から外に出て小屋の周囲を見てみればよいのではないかと…
とは言っても彼らから、小屋から出るなと言われているのも彼女は十分理解している。
なので、もしそうするのであれば、彼らには見つからない方法をとる必要があるだろう。
そこで彼女は昼間の間にさんざん見た小屋のおおよその位置を思いだし…
『確か…』
そう言いながら後ろを向いた。
彼女の視線の先は今は真っ暗で何も見えないが…
彼女の記憶の中では昼間、視線の先に窓があったのを見つけ出してしまった。
位置的には今いる場所とは正反対にある窓。
あそこからでれば小屋が障害物となっているので、二人にも見つからずに外に出ることができるのではと思い始める。
ただ、だからと言って彼女自身もみんなからキツく念を押された手前、直ぐに行動するのが憚られた。
心の中で、「いや…」や「でも…」はたまた「それなら…」など様々な事を考えては消して考えては消しての繰り返し。
まるで心の中に数えきれないほどの自分がいて、様々な意見を出しあっているかのごとく彼女はひたすら考えていた。
そして結果が出る。
恐らくあの二人のあの様子は直ぐにお仕舞いにして小屋に戻ってくるようには思えない。
それであれば彼らが戻ってくる前に、ちょっと行ってパッと戻ってくればいいのではないかと…
『まー、大丈夫ですよね…』
そう一言だけ言って彼女は反対側の窓を探して、再び四つん這いになった。
★★★
山小屋の外で睨み合う両者。
お互いがいつまでもこうしているわけにはいかないと思ってはいても、動くことはできない。
そんなどうしようもない状況が続いていたのだが…
終わりと言うのはいつでも突然訪れる。
突如、小屋の中から女性の叫び声が聞こえる。
ハッキリ言って、その叫び声は尋常なものではなかった。
聞こえたのは一瞬であっても一時聞いただけで記憶にはかなりキツく焼き付いて離れないのでは?と思えるほどの叫び声。
小屋から、ある程度離れている彼ら二人の耳元まで聞こえるのはもちろんだが、恐らくその声は結界の外にいるモンスターにまで届いたのだろう。
彼らも声が聞こえた直後、それに呼応するかのように一斉に高い声で鳴き出す。
つい先程までは、無駄な音や声などは聞こえてこなかった小屋の周囲だが、今となっては耳から入ってくる情報だけで判断すれば阿鼻叫喚と言っても良いのではないかと言うような状態だった。
二人ともモンスターの鳴き声には一瞬怯むが、直ぐにそんなことは関係ないとばかりに両者は視線を小屋に送る。
そして二人同時に…
何があった!と思うやいなや。
一緒に走り出していた。
今、小屋にはフィリア一人しかいない。
そして聞こえた叫び声も明らかに女性とわかるもの。
それであれば方向と声質からいっても彼女に何かがあったと考えるのが、もっとも自然なことであろう。
両者はノルドからの話により、彼女が狙われている危険性があるのを知っている。
だからこそ、二人は叫び声の後ひたすらに走るのだが…
★★★
【やっぱりいた…】
この緊急時に響いてきた聞きたくもない声。
最初、俺はこの声を無視しようと思ったのだが、「いた?」この言葉に引っ掛かりを感じ…
『何がだよ…』
とふと漏らしてしまう。
当然、答えは直ぐに帰ってこないのだが、もう一つふと感じたことがあった。
(どこで見てんだ?)
そう思った俺は、一度走り出しておきながら一直線に小屋に向かうのではなく、瞬間的にその場に立ち止まってしまう。
当然、俺のそんな様子はフェンにも見られることになるが、今の状況で彼も俺の様子になど構っていられないと思ったのか、軽く見た後に直ぐに視線をそらし、そのまま小屋の方に向かって一直線に走っていった。
恐らくと言うより、ほぼ間違いないと思うことなのだが、今響いた【やっぱりいた…】という声。
これはフェンには聞こえていないだろう。
今までさんざん聞こえていなかっただけに、その声だけ都合よく聞こえたということはないはずだ。
それであればもしかするとだが、俺はフェンと違う角度から物事を考えた方がいいのでは…
それに、俺のいた位置がフェンのいた位置とは反対方向にいたのも幸いしたのかもしれない。
彼の位置から見えず、俺の方からは確認できるほどの小屋の反対側のギリギリ辺りに僅かだが明かりがあるのを発見した。
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