2ー80★話す順番

『あっ、後ね…もう一つ、昨日の話し合いとはまた別な判断をすることになったのを、二人には先に報告しときたいんだけど?』


俺がこういうとフィリアはじっと俺の顔を見つめてくる。

多分、話の内容が見えてこないので不思議に思ってと言うことなのだろうが…

正直、彼女にそういう態度をとられるとドキドキしちゃうので、ヤメテほしいところなのだが、あまり強く言えない。


その一方で、フェンはいつもの調子。

恐らく言いたいことが分かっているんだろう。


とりあえず、話に集中し直すために俺は座り直してから話を再び切り出していく。


『うん、実はグリエルモさんのことなんだけど…』

『彼のことですか?それでしたら先程、少し聞いたとは思うので、それほど仕切り直して話すことではないと思うのですが…』

『うん、確か昨日の話だと彼は極力、この小屋には安全が確保できるまで近づけないと言う話をしたと思うんだけど…』

『えぇ…はい。確かにそういった内容だったように記憶しておりますが……』


ここで彼女の態度が目に見えて暗くなっているような印象を受ける。


『俺も最初は昨日の話し合いの内容にするつもりだったんだけどね…さっき怪しい光見つけたと言ったよね?それでどう言ったものか分からないから、先ずは光の調査の方を優先するべきだと思うんだ』

『モンスターとか敵の可能性もありますし、もしくは何かのマジックアイテムの可能性もありますからね?』


やはりフェンは俺が話そうとしていることを理解してくれているようだ。

彼の言葉が良いサポートになっているのだろう。

フィリアが俺とフェンを両方見ながら、無言で頷いてくれる。


『そう、とりあず正体が不明だからね。それで、その調査する人員を考えた時、ある程度戦闘経験がある人員は一人でもほしいと思って、病み上がりで悪いなとは思ったんだけどグリエルモさんにも頼んだんだよね』

『確か、フィリア様の説明では王国の兵士とかそういう感じで言ってましたからね。単純な戦闘と言う面だけで言えば、傷が完治した今、僕らの誰よりも強いのでしょうし、確かに妥当な判断だと思います。』

『そう、俺もそう思ったんだよね。それで、急を要することだと思って、彼にはとりあえずトーレが持っていた地図を貰って、この山小屋の位置を教えたんだよね』

『まぁ!』


フィリアとは出会って数日しかたっていない。

だから彼女の内面なんかは、ほぼ知らないとは言える。

だが、それを差し置いて見ても、彼女は少なくともいきなり奇声を発したりするような性格ではないと俺は思っているのだが…


この時、彼女が上げた、たった一言は耳をつんざくような声だった。


彼女の声で俺は棒立ちになってしまう。

恐らく俺が棒立ちになってしまったのは一瞬だろうと言うのは推測できるのだが…


それにしても…


彼女の意外な一面を見てしまい反応に困ってしまった。


『あのー、アタルさん?いいですか~?』


俺が棒立ちから意識が戻った直後、恐らくフェンもそうだったのだろうか、それとも彼は大丈夫だったのか詳しい状況はわからない中で、若干ビックリした表情で俺に声をかけてきた。


『あー、ごめん…。話が途中で切れちゃったね。それで、一応なんだけどグリエルモさんも、ここに向かうことにはなっているんだけど…』

『そうなのですか?』


フィリアの声が明るい。

と言うよりも、顔に覇気がみなぎっていると言うような感じさえする。

間違いなく出会って一番良い笑顔だ。


『そうなんだけど…ちょっと判断としては早計だったかな?』

『早計と言うのは、どう言ったことでしょうか!全く持って構わないかと思いますが!』


俺の質問に対して、彼女の切り返しが早い。

と言うか、彼女の圧が尋常じゃない感じがするのは気のせいなのだろうか…

いや、恐らく話の内容に入りたいはずのフェンが困った顔をしていることからも間違いではないのだろう。

まー、とりあえず今の段階では言いたいことは山ほどあるのだが、彼女に良い報告をできたと言う事実を前向きにとらえようと思う。


『あっ、そうなんだ…とりあえずフィリアさんの了解を得られて何よりです』

『アハハ…』


フィリアの横で乾いた笑いをするフェン。


『そうですよ。彼の協力を仰ぎましょう!それでナカノ様、彼はいつこの場にやって来るのでしょう?』

『えっ…?一応地図で教えはしたけど…いつ頃とかの具体的な約束までは…強いて言うのであれば夕方までにつけそうなら来てみたいな曖昧な約束しかできなかったよ』

『そうなのですか…?』


彼が本当に来るのかどうか、怪しいと判断したのだろう。

彼女の雰囲気が一気に暗くなった。


『えっ…だって、病み上がりに始めての土地で近くに危険かもしれない場所がある中で、無理してでも目指してください。何てことは言えないですし…』

『はっ!確かにここは彼にとっては未知の場所です!と言うことは…ナカノ様?目印になるようなものなどが必要になったりはしないでしょうか?』

『え?目印?ん…?(空を飛んでくるからってことか…)確かに必要なのかもしれませんね!』

『それであれば、ナカノ様!先ずは、三人で外で話しませんか?その方が、彼の目印になるかもしれませんし!』


彼女はそう言いながら、いきなり世話しなく動き出す。

そんな彼女の様子を見て、俺は自分が話す順番を間違えてしまったのかもと反省するしかなかった。

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