2ー44★裏目

『おい、エルメダ!何とか一匹づつやれないか?』

『だったらナカノさん!盾役やってよ!一回止まって集中しないと…』

『盾持ってないから無理だって!盾役いなくても何とかならないか?』

『ちょっと無茶言わないでよ!ナカノさん無理だったらアンテロ、やってよ!』

『お嬢様、私も盾持ってないので攻撃を受けれませんよ』


俺は今、フィリア、フェン、アンテロ、エルメダと共にノルドの小屋を目指している。

それも全員が全員、必死の形相で全力疾走をしながら…

と言うのも8匹ものモンスターに追いかけられているからだ。

何でこんなことになったのかと言うと…


先ず最初に片付けたのはグリエルモの事だ。

彼の事は、一点を除きトーレが何とかすると言うことで、詳細については問題なく話し合いが進んだ。

そして終了後は二人と一匹を俺がスムーズに移動させた。

後は、ゆっくりと時間をかけながら彼の傷を治す方法を考えればいいだけだ。


彼は今、体の数ヵ所に包帯の下からでも確認できる強い光を放つ不思議な傷を抱えている。

これは、狩人ハンターのスキルである消えない傷ブレイクショットの効果らしかった。

何でもこの傷が光輝く間は通常のポーションなどでは血は止まっても傷口は塞がらないらしく、専用の治療じゃないと完治というのは難しいらしい。

そして専用の治療なのだが、これは当然だが貿易都市ルートに行き今回の調査報告を行って薬を集めるか治療師を当たることになる。

もしくはどのくらいの日数かかるか分からないが、スキルの効果が切れるのを待つまでおとなしくしている。

この話を聞いたとき、俺は気絶する前にアンバーから説明受けたのを思い出した。


(でも気絶して直ぐに話の内容を整理してなんて無理なんだよね…)


なので、俺がトーレとカントの話し合いの最中に疑問をぶつけようとしたときに邪険にされたのは、そういった経緯があったからなのだろうと今では納得している。

ただ、トーレの俺に対する扱いには若干思うところがあるのも事実だ…


続いて俺たちが片付けたのは調査員三名の事だ。

一応、俺たちの話の中ではフィリアとグリエルモには協力することになっている。

ただ協力するとは言っても、俺たちの力では限界がある。

そして、その限界の枠を広げると言う意味でも三人には一度貿易都市ルートに戻ってもらうことになった。

結果的に彼らの護衛にはティバーの四人が当たることになったのだが、実は最初揉めた。

ティバーの方からはフェンの護衛からなるべく離れたくないと言われたのだ。

確かにそれについては契約上の事も心情についても色々とあるはずなので、みんな躊躇ったのだが…

フェンの方から俺が連絡役として最も適切だからと聞かされ、グリエルモを運んだのを見ると彼らも納得したようで調査員三名の護衛に専念するといってくれた。

一応彼らは貿易都市ルートまで護衛が終わった後は、直ぐに迎えに行くということになり、その場所がノルドの小屋らしい。


俺はこれらのことを聞いた時、何故ノルドの小屋なのか疑問に思った。

グリエルモの件は、確かに移動の必要はあるのかもしれない。

食料の心配や衛生面など洞窟に閉じ込められるよりは、別邸の方が安全なのかもしれないが…

ただ落ち合う場所なら洞窟の方であれば、待っているだけなので安全確実なのではないかと思ったからだ。


勿論、フェンに詳細の方を聞いてみた。

すると確かに待っているだけなら安全なんだが、俺たちには他にもしなければいけないこともある。

特に食料などはどうすればいいのかと言うことだ。

それにノルドなら何か知っているも知れないとも言っていた。

確かに数人で山の麓にポツンと寂しくいるよりは、一人でも多い人数で小屋に籠る方が安全なのかもしれない。

それを聞いた俺たち四人は、全員で賛成となったのだが…

でも、ノルドなら知っているかもって…

彼って一体どういう存在なのだろうか。


問題となったのは移動方法だった…

フェンに山の地図を借りると、そこには座標認識スポット情報が記載されていた。

なので後は、座標移動ムーブで山小屋まで直接行けばいいだけと思ったのだが…

どうやら、それは考えが甘いらしい。


確か俺がノルドの山小屋を下山するのに二日かかった。

その時は俺とフェンの他に熟練と言われるティバーの四人がいたのを記憶している。

俺がリエン山に関わったのは、それも含め今回で二回目。

それも今いるのは正式な登山ルートとはかけ離れている。

フェンも正式な道順じゃないと分からないようなことを言っていた。


みなを送り出し残った俺たちは地図を見ながら座標移動ムーブを繰り返したのだが…

何回やっても成功しなかった。

座標移動ムーブを行った後は、移動できないばかりか強烈な吐き気に似た感情が襲ってくる。

不思議な感覚を覚えながらカードを発動させると精神がごっそりと減っているのが分かった。

明らかにスキルの失敗なのだろう…

取り合えずフェンから精神回復薬マインドポーションを貰い次なる手段をうってみることに。

その次の手段と言うのが、行きなり目標位置だと失敗すると言うのであれば、中継地点を設けてはというものだった。


聞いた当初はなるほどと思ってはみたのだが、改めて地図を見るとその考えは脆くも崩れ去る。

地図に中間値点の座標認識スポット情報が記載されていないからだ。


四人は何とか予測しながらとか言ってくるのだが…

俺は冒険者として活動して、それほど日数がたっていない。

もしかしたら座標認識スポット情報には法則があるかもしれないが、そんなことは考えたことがなかった。

ティバーには山小屋を目指していると伝えた手前、どうすればいいのか途方にくれていた所。


エルメダからの提案で先ずは山小屋を目指してみることになった。

いつものお気楽彼女の発案、とりあえず上へ上へ目指せば良いのではといいだしたのだ。

誰しもが不安の感情を隠せなかったが、逆にいうと他に策がないのも事実。

なので、先ずは目指してみようということになった。


最初は順調に山登りも進んでいたのだが、俺たち5人は誰も専門知識を持ち合わせていない。

そんな山登りだとモンスターには格好の獲物に見えるらしく、次々に狙われることになった。

ただ狙われるとしても俺とエルメダ、アンテロは貿易都市ルート周辺で、それなりに経験もあった。

なので相手が一匹、二匹などの状況であれば問題はなかったのだが、もちろん集団で襲ってくるときもある。

それに、もしかすると登山の方も三日目に入り、若干気が緩んでいたというのもあったのかもしれない…


いつのまにやら後ろから8体ものモンスターが追いかけてくる事実を知った時、俺たちは我先にと逃げ出した。


幸いにして足の早いモンスターではないのか、目立って距離が詰められるということはない。

ただ、こちらの逃げる速度もヤツラを振り切れるほど速いものでもなかった。

体力の限界が来る前に、どうにか安全地帯はないものかと思っていると、フェンが前方を指差す。


『あの木の上に確か鈴があるので、それを鳴らしてください!』


フェンのこの言葉に、俺は一も二もなく思いっきり木に体当たりをぶちかました。

冷静に木に登って鈴をとってなんていう隙がなかったからだ。

俺が木にぶち当たったのを見て、フェンが木にしがみついてきた。

そのフェンの行動を見て、残りの三人も次々に木へとしがみつく。

当然だが俺とみんながとった行動は木を揺らす。

俺たち全員に揺らされた木は上から鈴を落とし、その衝撃で鈴は微かな音色を地面と奏でる。

鈴は地面とぶつかることで、音色と一緒に地面に不思議な波紋を形成した。

その波紋はみるみる大きく広がり半球体を形成していく。

半球体はやがてモンスターとぶつかると彼らを弾き、そして弾いた場所で広がりをやめた。

弾かれたモンスターたちは、どうにか球の中に入ろうと試みるが、どうやっても入ってこれない。

次第に諦めて俺たちの前から姿を消した。


『良かった~。間に合いましたね。結界ができましたよ』

『結界?えっ?』

『はい。ノルド様の領域に入ったようなので、ここからは安全ですよ』


恐らく目的地はすぐ側なのだろう。

フェンのこの言葉に、誰もが一様に安堵の表情を浮かべた。

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