第62話 高砂紫吹の「カントリーロード」 その③


     62.


 春休みが終わり、学校が始まった。

 入学式が行われて、一年生が新しく入ってきた。

 このタイミングで、鎮岩とこなべはいち早くスクールカウンセラーへの接触を試みた。

 結果として出会うことができなかった。

 学校には変わらずに来ているらしいが、『いる』と言われた場所に行っても会えない。出会うことができない。まったく遭遇できなかった。

「ここまでくると作為的なものを感じるわね」

 高砂たかすなは言う。

「私も鎮岩ちゃんもスクールカウンセラーの竜川たつかわ先生とは会ったことがある。私たちも『リトル・ピーターラビット』の影響下にあるのは間違いないと思う。この影響下にある人間のことを、『リトル・ピーターラビット』はどれくらい把握できるのかが問題ね」

「どれくらい、と言いますと?」

「行動を把握できているとか、考えていることを把握できているとか。そういうの」

 まあ、もし考えていることまで筒抜けならお手上げなんだけど――と肩をすくめる高砂。

「どれだけ探しても会えないのは……まあ、そうですよね。私たちの行動が何かしら伝わっていないとここまで避けられないですよね」

「あるいは、私たちが気づいていないだけで、遠隔操作されているとかね。まあ、どちらにしても、ここまで会えないとなると黒と見て間違いないでしょうね」

「『リトル・ピーターラビット』からの影響を、どうにかして引き剥がす必要がありますね……」

 ちょっとした閃きがあった。

 だから、鎮岩はこんな疑問を口にした。

「それって死んだらどうなるんでしょうか?」

「どうなるって?」

 疑問の意図を、いまいち掴めず言葉を繰り返す高砂。

「死んだら、影響下から一度外れるんじゃないですか?」

「……そりゃあ、そうかもしれないけど」

 現状『マザーグース』の規模だけを見ても、結構な人数が『リトル・ピーターラビット』の影響下にある。

 スクールカウンセラーの竜川焚は、五條高校以外の高校にもスクールカウンセラーとして行っている。

 もし、ほかの学校でも同様に『マザーグース』のような状況を作っていたとするならば、人数は随分な数になる。それをすべて管理するのは、簡単なことではないはずだ。だとするならば、どこかで『能力』による影響下と、その外側で線引きされている可能性がある。

 その線引きまではわからないが、少なくとも『死んでいる人間』に『能力』の影響なんてあってないようなもののはずだ。

『価値観の偏り』があったことから察するに、人の考え方や趣向などに干渉する『能力』だと思われる。ならば、『死んでいる人間』になれば、一度その『線引きの外側』に出ることになり、『能力』の影響下から外れるのではないだろうか。

「いや、それでも、よ。それでも『じゃあ死にます』ってわけにもいかないでしょう。死んだら終わりよ。生き返ることなんてできないんだから」

「高砂さんの『能力』――『カントリーロード』ならば、それが可能じゃないですか?」

「私の、『能力』ならば……?」


『マザーグース』を作ったのがどこの誰かはわからない。

 だけど――鎮岩は自信を持って言える。

(きっと私たちのことを仲間なんてふうに思っていない)

 ただの手駒か。

 それ以下の何か程度にしか思っていないことだろう。

 安く見られたものだ。

(だから)

(私たちが作り直す)

 実際に『三人のリーダー』として活動している鎮岩こと子ならば。

『マザーグース』のトップのひとりとして君臨している鎮岩こと子ならば。

 それが可能である。

『リトル・ピーターラビット』が、何かしら関わっているのは間違いない。何としても『マザーグース』の『奥』に、手を届かせる。

(この『マザーグース』という集団を、より良いものに作り直す)

 それが、鎮岩こと子と高砂紫吹の目的である。






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