第24話 忘れちゃダメ、お嬢様のこと
料理部の女の子三人と楽しい時間を過ごし、最後には『フリメール』でびっくりするような美味しい食事を食べて、新しくやってきたフランス人のボクっ娘料理人に宣戦布告するという充実した一日を送った俺だが……忘れてはいけないことがある。
それは昨日俺が姫野に遭遇してしまい、しかも小桜と付き合っているという誤解をされてしまったあげく、その誤解を結局払拭しないままに後回しにしていたという大変な事実だ。
何事も後回しはよくない。「明日やれることを今日するな」というダメ人間の見本みたいな格言も世の中にはあるが、だいたいは面倒事こそ先にこなしておく姿勢が称揚されるものだ。「明日から本気出す」はやらないということであり、だいたい試験前に追い込まれた学生や更新をサボりがちになったネット小説家とかが多用する表現としてよく知られている。
そうして後回しにしたことは、だいたいツケを払わされるもので――
「よう姫野」
「あ、あんた……よくもぬけぬけと顔を出せたわね!」
昨日は土曜日だったから、今日は日曜日だ。休日は昼と夜の二食を作るというルールになっていたため俺は午前からやってきたのだが、俺を迎えたのはめちゃくちゃ機嫌の悪い姫野だった。
「なにか言うことがあるでしょ! なによ、昨日のうちにメッセージの一つも送ってこないなんてバカにしてるのかしら!?」
「あーいや、悪かった。嘘ついて休みとったことは反省してる」
「反省してるのかしら? イチャイチャと小桜さんと……楽しそうだったわね!」
「あれは別にデートしてたわけじゃないし。料理部の女子三人と遊びに行ったんだ」
事実として違う部分にはこうやって突っ込ませてもらうけど、基本的に俺が全面的に悪いということは間違いないのでクソ女相手に腹立たしいが仕方なく頭を下げる。正直、まさか出会うとは思ってなかったのだ。交通事故みたいなもの。
しかし姫野が怒るのは、よくわかる。
「あんたどう見ても休日に遊びに行くようなタイプじゃないのによく嘘ついてサボってまで行こうと思ったわね」
「いや女の子に誘われたら行くしかないだろ。女の子といっしょにいられる時間なんて至福の一時だからな」
「ふ、ふーん……でも結奈とは毎日会ってるじゃない?」
「クソ女は女の子カウントされないんだ残念ながら」
「うっ……! な、なによいっつもそういうことばっか言って!」
と、姫野は俺の股間に蹴りを入れてきた。咄嗟のことに避け損ねてしまい――もろに一撃を食らった俺は、三度目だが決して慣れることのない悶絶するような痛みにぐっとうずくまった。
「このクソ女、どうするんだよ俺のものが使い物にならなくなったら!」
「知らないわよあんたなんて一生童貞なんだから関係ないでしょうが!」
「てめえ……というかこの間警告したよな、もし次股間蹴ったら胸揉んで押し倒してやるからって」
「ふん、やれるもんならやればいいでしょう。どうせそんなことできないチキンのくせに!」
この……まじで一回くらいやってやろうかこのクソ女が。
俺はまだ痛む股間を手でおさえながら立ち上がり、姫野を睨みつけた。しかし姫野は超然とした態度で睨み返してくる。本当にお灸をすえてやらないといけないな……そう思った俺はなんだか暴走気味になってしまい、姫野を押し倒す気満々で距離を縮めていった。姫野はちょっと驚いたように、ぱちくり瞬きした。
「ちょ、ちょっと待ってあんた本気でやるつもりなの」
「ふふ……俺が本気だってことを見せてやらんとな。もう二度と俺の股間を蹴るなんていう非人道的な行為もできないようにな」
「あ、ちょ、あの……!」
しかしぎゅっと目を瞑って顔をしかめた姫野を見て――俺は寸前で思いとどまる。あんなに威勢がよかったのにふつうに怖がっちゃってるし。というか俺なにしようとしてたんだよ、ふつうにセクハラで捕まるレベルのことしようとしてたな。
仏の顔も三度まで、というし男なら股間を三度も蹴られればその怒りの蓄積がどれほどのものになるかわかるだろうし、爆発しかけたのも理解してもらえるとは思うが……そうはいってもさすがにやっちゃいけないことというのはあるし、俺は犯罪者になりたくもないので、何もせずに一歩引いた。
すると――少しして、姫野が目を開いた。
「あ、あれ」
「どうした?」
「えーと、結局何もしないのあんた?」
「クソ女を押し倒したところで何も嬉しくないし」
「はああ? な、なによそれ結奈の体に魅力がないとでも言いたいの!?」
姫野はなぜか激昂してたけど……いやいや、魅力あるとか言って押し倒してたらてめえ絶対警察にでも通報してただろうが。そりゃあ顔だけはかわいいしスタイルもいいから魅力がないというのは嘘だが、さすがにリスクとリターンが見合わなすぎる。
「あんた、もう許さないわ! 結奈、本気の本気で怒っちゃったから!」
そんな感じに姫野は部屋に引っ込んでいってしまった。はあ……今日ばかりはなんか俺の方にもけっこう非がある気がするから、なんともいえないな……
* * *
今日なんと5話目!
これで今日の更新は打ち止めにします……もっと読みたいという方がいれば「モテない人気漫画家と、超絶美少女アシスタントと」「うちのマネージャーがかわいいです。」等の別作品もあるので、ぜひよろしくです(>_<)
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