「Moonlit Midnight」

天空高く 輝く白銀の満月

すっかり寝静まった住宅街の道を

白いカーディガンを着て歩く


この月明かりで

道路にくっきりと自分の影ができるほど

街灯がない場所に来ても真っ暗ではなく

この月明かりで

何がどうなっているのか周囲がはっきりと認識できるほど


いつもより時間をかけて

いつもより遠くへ

春先に泣きながら佇んださくらの樹が見える場所を目指して

川沿いに咲いていたさくらの並木がある土手を目指して歩く


時折 行き過ぎる車のヘッドライトをやり過ごすと

また もとの静寂

真夜中の音楽が聴こえてくる

それとも月のささやき か 星のつぶやき か

宇宙(そら)の奏でる音なのか

心に流れ込んでくる『何か』


さくらは…

そこに変わらず立っていた

明るい月明かりのなかで黒い影として

吹く風に枝を揺らしながら立っていた

対岸から そっとそのさくらを見ていた

あのときの悲しい想いはなかった

散り逝く花びらに自分の気持ちを託したあの想いは


今夜 

わたしは なぜこの場所を選んだのだろう?

わたしは なぜこの場所に来たかったのだろう?

今夜が区切り

今夜がはじまり

あの想いを浄化したかったのだろうか

あの想いを断ち切りたかったのだろうか

あの想いが「魂の暗夜」だったのだと理解するために


わたしは ようやく「この場所」に立ったんだ

自分の意志で

始まりを完了させるために

もう 後戻りはできない

この月明かりのように真っ白な光に照らされながら

その導きにしたがって進む これからも…

「あなた」を信じて



There is a splendour in my name hidden and glorious,

as the sun of midnight is ever the son.


              from THE BOOK OF THE LAW III-74

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