「Chance to Meet」
「あ、あれ!?きっちゃん!?久しぶりぃ」
ショッピングアーケードを歩いていて、自転車に乗った誰かとすれ違い、後ろから声をかけられた。
振り返ると見覚えのある顔。
すっかり見違えるように大人になった彼。
ガタイがいいからちょっと見た目はやーさんっぽいけど、笑うと子どものようにえくぼが出る。
2年前と変わらない笑顔。
うれしい反面、気に入らないところを口煩く言いながら、行動に出た。
「何が『久しぶりぃ』だっ!人の目の前で未成年が煙草吸うな!」
「えー、いいじゃん」
「ったく、よこせ!踏み消してやるから!」
「ああー、もったいねぇ、こんなに長いからまだ吸えるのに~」
「うっさい!」
口元から奪い取って、道路に捨てると思い切り踏んづけた。
煙草は私の体重でペシャンコになってしまった。
「ほら、こんな所に捨てて行くな。はい、お持ち帰り!」
「相変わらずだなぁ」
苦笑いしながら、差し出された煙草の残骸を律儀に受け取っている。
そんなところも変わらない。
「ところで、何でこんなとこにいるの?」
「お、俺?今から彼女のところに行って、それからバイト。きっちゃんは?」
「『仕事』に決まってんでしょ?」
まさかこんなところで会おうとは思わなかった。
今の私は一体どんな顔をしているのかは容易に想像がつく。
素のまま「彼」のことを思い出していた私。
とりあえず急いで仕事用の顔をつくるしかなかった。
「忙しそうだね」
「いつもの…ことよ。」
ため息まじりに言ってみた。
そう、いつものこと。
変わらない日常なのだ。
これもその延長上かもしれない。
何気ないことの繰り返しから生じる変化のひとつ。
あまり私のことを詮索してほしくなかったから、いきなり本題を振った。
前置きをする余裕もなく核心に突っ込んだ。
「それより、学校やめたって聞いたわよ」
噂の真相を確かめる。
事実としては知っていたけれど、本人に確かめたかった。
彼が自分で選んだ道。
あのときも、今もきっと同じなのだと思いながら。
「まぁ~ね~。でも、今は定時に行ってるしぃ」
「ふ~ん」
「勉強しねぇと!」
険悪になることもなく表情は悪くなかった。
それを見て、ちょっとほっ…とした。
ほっとすると新たな文句が生まれる。
やはり言わずにはいられない。
彼も言われることが当然と思っているように、笑っていた。
「おまけに何なの?このロン毛にカチューシャは?」
「カッコイイだろ?」
変なポーズをキメ込んでいる。
それを見て、思わず頭を平手で殴ってしまった。
「カッコいいかどうかはともかく…まったく!でも、頑張ってるんだ。」
「おぉよ!頑張ってるよ。そっちは?」
「まぁまぁかな?」
まあまあなどではなかったけれど、彼に本当のことを告げるわけにもいかない。
精一杯の作り笑い。
それでも私の中によみがえる2年前の彼との
「んー、そう。なんか痩せたんでね?」
「馬鹿者!美しくなったと言え!!」
ふんぞり返りながら、バシバシ!二の腕を叩きながら応酬した。
「(相変わらずかよ)はいはい…」
叩かれた場所を手で押さえながら、困った顔で自転車を方向転換させた。
「そろそろ、行かねぇと。んでね。またな~」
「元気でね。またね」
そう言いながら、彼の背中を見送った。
あの当時のつらい想いが嘘のよう。
苦しかった毎日が嘘のよう。
何年か後にこうやってうれしいこともやってくる。
あの頃の彼自身から成長した姿で、大人になって。
私は彼の人生のなかで一瞬でも同じ時間を過ごせた。
そのことを誇りに思いたい。
私は彼の人生における通過点になれた。
これから先、長い人生の中でその通過点の日々は彼の記憶にそうはっきりと残るものでもないのだろうが。
彼の一部になったことは間違いない。
そのことがうれしい。
それを知ることができた今日、この時…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます