第59話 エインセルの加護
「美容に良さそうな物って何だろなー。ビタミンCとか?」
ガーネットに頼まれ、アーニャが出してくれたフルーツを食べながら美容について考えているのだが、これと言った物が全然浮かんでこない。
「リューちゃん、ビタミンシーって何? どうやって使うの!?」
「いや、今のはただの冗談だから、気にしないでくれ」
レモンの輪切りを顔に乗せるレモンパック? みたいなのをテレビで見た事がある気もしたけれど、ガーネットサイズだと思われる妖精の女王の顔には乗せられない。
それに、この異世界にレモンみたいな果物があったとしても、地球のレモンと同じかどうかなんてわからないしな。
「しかし、それにしても……こっちのエルフさんも、そっちの猫ちゃんも、二人とも肌が綺麗だよねー」
「まぁ二人とも若いしね」
「若い? まぁ猫ちゃんはわかるけど……いや、エルフさんもエルフの寿命から考えれば若いかー。うーん、女王様は結構……げふんげふん」
ん? アーニャと俺はちゃん付けなのにセシルだけさん付け?
言われてみれば、エルフは長寿の種族っていうのが定番だけど、セシルって何歳なんだろうか。
見た目は十代前半だけど……いや、考えないでおこう。
「セシルとアーニャは、美容の為に何かしてる?」
「ボクは何もしてないよー」
「私も特には」
だよねー。
普段、二人が美容に気遣って何かしている様子は無さそうだしね。
毎日お風呂には入っているけど、それは清潔を保つ為だし。
「ねぇねぇ。二人とも何もしていないって割に、髪の毛が綺麗だよねー。これは、どうしてー?」
「どうして……って言われても、何もしてないよー?」
「そうですね。普通にお風呂で髪の毛を洗っているだけですし……あ、でも家に居た頃は有り得なかったけど、今は毎回シャンプーを使わせてもらっているからかな?」
あー、そう言えばアーニャは当初シャンプーの存在を知らなかったもんな。
でも相手は妖精の王女様なんだし、シャンプーくらい知っているんじゃないの?
「シャンプー……って何?」
知らなかったよ!
城魔法で実家を呼んでもシャンプーが消えていないから、この世界にも存在はするんだけど、一部の超金持ちしか持って無いって事か?
実際、セシルは使い方を知らないだけで、シャンプーの事は知っていたしね。
一先ずシャンプーの説明をして、実際にガーネットをお風呂へ連れて行って使って貰うと、
「おぉぉ……凄い。あわあわだーっ!」
汚れていたからか最初は泡が出なかったけど、改めて洗って貰うとガーネットの身体が泡に包まれる。
ちなみに、文化や風習が違うのか、ガーネットは服を脱がずに髪を洗っているけど……まぁそこは突っ込まなくても良いか。
ガーネットが持ってきた花粉を調合してフェイス・ローションにして、調剤室にある金香樹からシャンプーも作る。
「ありがとー! いやー、本当助かるよー。あ! そうだ、ちょっと待ってて……」
何かを閃いたらしいガーネットが、ローションやシャンプーを入れた小瓶をそのままに、窓から外へと出て行ってしまった。
この状態で家を出て実家を消す訳にもいかないので、それぞれ好きな本を持ってリビングで寛いでいると、
「お待たせー! って、何それー! 本がいっぱいあるー!」
「ガーネット。こ、この人たち、本当に私たちの事が見えているの?」
ガーネットが別の妖精を連れて来た。
髪の毛が黄色で、ガーネットよりも少し背丈が大きい妖精だ。
「えっと、ガーネット。そちらの妖精さんは?」
「紹介するねー! この子はトパーズ。私のお友達なんだー」
「は、はじめまして。トパーズです。女王様のローションを作っていただいた方だと聞いています。その件については、本当にありがとうございます」
宙に浮かぶトパーズから深々と頭を下げられた。
同じ妖精でも、ガーネットとは随分と性格が違うらしい。
「でね、このリューちゃんが今度は髪の毛を綺麗にするアイテム――そこにあるクリーム状の物を作ってくれたの。という訳で、お礼がしたいからトパーズの加護をあげて欲しいんだー」
「私の? ガーネットが自分で差し上げたら良いのでは?」
「あはは。私はもう、ローションを作って貰った時にあげちゃったんだー」
「なるほど。そういう事なら……あの、リューチャンさん。何か修得したいスキルなどはありますか?」
ガーネットのせいで、俺の名前がおかしな事になっているが、スキルが貰えるというのはありがたい。
前に貰った倉魔法は非常に便利なのだが、俺が本当に欲しかったのは黒魔法だ。
トパーズはガーネットよりも真面目そうだし、間違えたりはしないだろうけど、念のため黒魔法とは違うものをお願いしてみよう。
「じゃあ、何か攻撃系の魔法をお願いします」
「攻撃系の……わかりました。では、リューチャンさんに虹魔法が使えるようにいたしましょう」
虹魔法? 何だろう。聞いた事が無いんだけど。
まぁ後でセシルに聞いてみようか。
「では、そのままお待ちください」
前回と同様に動くなと言われ、直立不動で立って居ると、頬に何かが触れる。
「これでリューチャンさんには私の――エインセルの加護により、新たなスキルが備わりました。えっと、シャンプー……というのですかね。ありがとうございます」
「リューちゃん。ローション、ありがとー! またよろしくねー!」
ガーネットのピクシーに対して、トパーズはエインセル……妖精にも種族? みたいなのがあるらしい。
そしてトパーズとガーネットが、それぞれ小瓶を手にして窓から飛び去って行き、
――新たなスキルを修得しましたので、二次魔法「トレース」が使用可能になりました――
いつもの声が響いた。
……で、毎度ながら二次魔法って何なのさ。
虹魔法っていうのは、どこへ行ったんだー!
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