第56話 一件落着?

「……良かった……よね? これで」


 ヴィックとロザリーが消えた場所――結界を見つめながら、自分に言い聞かせるようにポツリと呟くと、


「うん、そうだよ。そして、お兄さんのおかげで、今度こそあの二人が幸せになれると思うんだ」


 セシルが俺を気遣うように応えてくれた。

 そう……だよな。

 あのままだと、再会した所で家庭を築く事も出来ないし、子供を育てる事だって出来ない。

 俺の両親が俺や妹の事を、家族をどう思っていたかは、まだ子供を持った事がない俺には分からないが、ヴィックの最期の言葉で、きっと良かったんだと思う事にする。

 あ、最期の言葉で思い出したけど、ロザリーさんの形見の品ってどうしよう。


「ところで、この腕輪はどうしようか。もうレイスは出ないと思うから、元の場所へ戻そうか?」

「ま、待ってください。ほら、最後にヴィックさんが言っていたじゃないですか。その形見の品は好きにして良いって。ですから捨て……じゃなくて、お店に売……じゃなくて、えーっと……そうだ。屋根裏部屋に置いておくのはどうでしょう」

「あ、そう言えばクリニックに増築された屋根裏部屋の事をすっかり忘れてたね。とりあえず、先ずは地上へ戻ろうか」


 未だにアーニャの顔色が優れないので、一先ず入口に向かって歩いて居ると、


「そういえば、お兄さん。さっき、どうしてカースタッチを受けたのに平気だったの?」

「そうですよっ! 最初は完全に意識を失われて、大変だったんですよ!?」


 セシルが逃げている最中の質問をぶり返す。


「あー、あれは咄嗟の思い付きでさ。先ず、クリア・ポーションを口に含んでおくだろ。それから、あのカース・タッチを受けた瞬間に口の中のポーションを飲み込んでいたんだ。そうすると、カース・タッチで呪いを受けても、すぐに治るって訳だよ」

「……うーん。それで本当に効くのかなぁ?」

「まぁ無事だったんだから良いじゃないか。あ、出口が見えてきた」


 陽の光が差し込む場所へと戻って来て、ようやく帰って来れたと実感する。

 出来れば、このまま芝生の上で寝転んでしまいたいけれど、流石に女の子が二人も居るので街の外まで歩き、城魔法で家を出す。


「あー、疲れた」

「ボクも流石に疲れたよ」

「帰ってこれて良かったです……」


 三階の部屋まで上がる気力もなく、そのまま三人揃って診察室のベッドで眠りに就こうとした所で、


「ちょっと待って。お兄さん。確か、診察ってスキルがあったよね。一応、自分の状態を診ておいてよ。今は無事といっても、カース・タッチを何度も受けたんだから」

「えぇー、大丈夫だって」

「ダメだよ! お兄さんに何かあったら、どうするの!」


 セシルが真剣な顔で詰め寄って来た。

 物凄く眠たいのだけれど、それでセシルが安心するのであれば……と、自分自身に診察スキルを使用する。


『診察Lv2

 状態:呪い無効化(二十四時間)』


「ん? 俺の状態が、呪い無効化って表示されてる……あ! Aランクのクリア・ポーションを飲んだから、その効果か!」

「なるほど。そういう事だったんだね。変だと思ったんだよー。カース・タッチを受けてからポーションを飲むなんて行為が、そう何度も成功するとは思えないもん」

「う……まぁそうなのかな。って、という事は、俺がお腹をタプタプにさせたのは、全く無意味だったのか」

「あはは、残念。でも、お兄さんが健康だってハッキリ分かって良かったよ」


 俺が考えた作戦が無駄だったと判明したのは少し悲しいが、セシルに笑顔が戻ったので良しとしよう。

 そして、これでようやく眠りに就ける……と思った所でアーニャがやってきた。


「あの……今のスキルで変な状態になっていないか分かるんですよね?」

「うん。そういうスキルだからね」

「あ、あの……私も診てください! お、お化けがいっぱい居たし、何かにとりつかれていたりしたらイヤですし」


 あー、アーニャはゴースト苦手みたいだし、気持ちは良く分かる。

 分かるんだけど、それはそれで問題があるんだが。


「あのさ、アーニャ。確かに俺は診察スキルを使えるんだが、そのスキルを発動させるには条件があってだな……」

「確か、胸を触らないといけないんですよね? 仕方な……くはないですが、仕方ないです。それでも良いので、早く診てくださいっ!」

「え? いいの?」

「何度も言わせないでくださいよっ!」


 そう言って、アーニャが着ているワンピースのボタンを外しはじめた。

 アーニャが恥ずかしそうに顔を赤らめ、指を振るわせながら服を脱いでいく。

 そんなアーニャが少しかわいいと思ってしまった所で、彼女の中で何かが吹っ切れたのか、突然大胆に上半身を露わにする。


「い、いいんだね?」

「恥ずかしいから早く済ませてください」


 これはあくまで医療行為だ。

 グレーグンの町で行ったように、患者さんの一人に過ぎないんだ。

 そう自分に言い聞かせるのだが、普段から行動を共にしているアーニャの姿が重なり……って変な事を考えなっ!

 俺は医者。俺は医者……


「……診察!」


 出来るだけ心を無にして診察スキルを発動させた。


『診察Lv2

 状態:健康』


「良かった。アーニャは健康で、何かにとりつかれたりはしていないよ」

「そっかー。良かった。リュージさん、ありがと」


 アーニャが素早く服を着たので、今度こそ眠る事が出来る。

 そう思った所で、


「ボクもっ! お兄さん、ボクも診察してっ!」


 セシルが何故か頬を膨らませて、診察スキルを要求してきた。

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