第53話 ロザリー=モレル
「来なさいっ! 来るならどこからでも……出来れば来ないで欲しいけど、来なさーいっ!」
遺跡の地下へ入る直前に、アーニャが良く分からない事を叫びながら、気合を入れている。
チラりと周囲を見ると、観光客らしき人たちや、露店の人たちに物凄く見られているけど、まぁいいか。
再び遺跡の地下を進んで行くが、前回同様に結界の場所までは何も現れなかった。
「よし、じゃあ二人とも準備は良い?」
「うん、大丈夫ー!」
セシルは相変わらず余裕たっぷりなのだが、
「ま、任せてください。何かあれば一気に全部投げつけます」
「いや、ダメだから。あくまでメインは俺のポーションで、囲まれたり、数が多い場合にアーニャの出番だからね? アーニャの持つホーリー・インセンスの方が数が少ないんだからさ」
「だ、大丈夫です……きっと」
アーニャは既にテンパリかけている。
前回はアーニャが腕にしがみ付いてきて、動きにくくなってしまった。
だったら、今回は先に俺から手を握っておけばどうだろうか。
それならしがみ付かれるよりは動き易いし、いざとなれば手を離せば良いし。
有無を言わさずアーニャの右手を握ると、
「よし、二人とも。行くよっ!」
「――っ! ずるいっ! ボクもっ!」
セシルが俺の右手を握ろうとしてきた。
「いや、右手を塞がれると困るんだけど」
「……じゃあ、おんぶっ! おーんーぶーっ!」
なんでだよ。
だけど、俺が突っ込む前に問答無用でセシルが俺の背中へ飛び付いてきた。
……って、このままだとセシルが落ちる! というか、セシルが俺の首に手を回しているから、俺が死ぬ。
仕方なくアーニャの手を離して左手でセシルの太ももを支えると、
「やだっ! リュージさんっ! 一人にしないでっ!」
いや、一人に……って、すぐ隣に居るよね?
結局、アーニャが俺の左腕にしがみつき……これ、前回よりも酷くなってないか?
「リュージ殿! 頼みましたぞぉぉぉっ!」
ヴィックに応援されながら、重い足取りで――セシルをおんぶしながら、アーニャを引っ張り――結界の中へと入って行く。
暫くは何事も無く進んで行くけれど、昨日と同じ場所に差し掛かると、カツカツと足音が聞こえてきた。
「二人とも、スケルトンが来るよっ!」
「うん。お兄さん、頑張ってねー」
「リュージさん! 任せましたっ!」
セシルは俺の背中から降りる気が無いし、アーニャはグイグイと俺を前に押し出す。
いや、もともと主戦力は俺だって自分で言ったんだけどさ。
何か考えていたのとは色々と違う気がするなと思いつつ、倉魔法でクリア・ポーション(B)を取り出した。
ビンの蓋を開け、
「とりゃっ!」
タイミングを見計らって、中身を掛けた……けど、ビンの口が小さいからか、一度に少ししか掛けられない。
これは、失敗か!? と思ったら、ポーションが三分の一程度しか減っていないというのに、スケルトンが消滅した。
凄いな。これくらいの量で倒せるのなら、クリア・ポーションを作り過ぎてしまったかも。
「お兄さん凄ーい!」
「リュージさんっ! 凄いですっ! キャー! ステキー!」
アーニャが心底嬉しそうに喜んでいると、何故かセシルが俺の首に回す腕に力を込める。
セシル。まだ大丈夫だけど、それ以上やると俺が死ぬからね?
その後も奥へ進むとスケルトンが現れるが、群れる習性が無いのか、常に単体で出てくるので、俺がクリア・ポーションを掛けるだけでサクサクと倒せる。
すると、少し開けた所に辿り着いた。
広い場所に、一定間隔で太めの木――それも今は朽ちているが――が刺さっている場所だ。
おそらく、ここがヴィックの言っていた墓地なのだろう。
残っている木にも何も書かれて居ないので、埋葬というより、ただ捨てられただけというヴィックの説明にも合う。
そんな中で、端の方に一つだけ他とは異なる石碑がある。
何て書いてあるのかは分からないが、石に文字が刻まれており、如何にもお墓といった感じだ。
「ロザリー=モレルって書いてあるね。これが、ヴィックの恋人のお墓じゃないかなー?」
「セシル、読めるの? 見た事の無い字だけど」
「うん。これ、古代語だよー」
古代語なんてのがあるのか。
流石、本を沢山読んで居るだけあって、セシルは博識だな。
セシルに感心しつつ、その石の周辺を見てみると、地面から古い金属片のような物が見えた。
セシルに降りて貰って金属片を掘り出すと、物凄く古い腕輪の様にも見える。
「これ、ロザリーさんのかな?」
「きっとそうですよー。ヴィックさんの依頼は達した訳ですし、早く帰りましょう!」
アーニャが再び俺の腕にしがみ付き、早く帰ろうと催促してきた。
それをやられると、またセシルがおんぶをせがみ、帰って遅くなりそうなんだけど。
やれやれ……と小さく溜息を吐いた所で、
「お兄さん! 何か……来るっ!」
緊張した様子のセシルが鋭く声を上げた。
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