第32話 女子高生診察
クリニック側の入口の前から始まって、家をグルリと囲うように長蛇の列が出来ている。
懐かしいな。
休日の開業時間前はいつもこんな感じだったよな。
「り、リュージさん! どうしてそんなに、ほっこりされているんですか!? ど、どうしましょう」
「ごめんごめん。ちょっと懐かしいなって思って」
「懐かしい?」
「あ、いや。何でもないよ。さて、まだセシルが戻ってきていないけど、とにかく患者さんを中に入れてあげよう。立ちっぱなしだと辛いだろうしね」
アーニャを受付カウンターに立たせて扉を開くと、
「これから診察を始めます。皆さん、ララさん――商人ギルドからの紹介で来られたんですよね? でしたら、費用負担はありませんので、どうぞ順番に中へ入ってください」
出来るだけ大きな声で、ゆっくりと話す。
これは医療に直接関係はしないけれど、仕事中の父さんの真似だ。
患者さんを不安がらせないように、自信を持って大きな声でゆっくりと。
本当は医者らしい格好だとより良かったんだけど、流石に白衣は無かったし、そもそもこの世界の医者がどういう服装なのか分からないかったんだよね。
「あの……ここへ来たら、この身体の辛さが治るってお姉――ララに言われたんですけど……」
「えぇ、その通りです。ですが、一人ずつしか診れませんので、最初に並んでいた方から、こちらの女性にお名前と……そうですね。自覚症状――どんな風に辛いのかを伝えていただければと思います」
一瞬アーニャが、そんなの聞いてないんですけど……とでも言いたげにチラリと俺に目をやり、だけどちゃんと対応してくれている。
早速一人目、ララさんを少し幼くしたような十代後半の少女の受付が終わったので、診察室へと招き入れた。
……落ち着いたらアーニャに呼んで貰いたい所だけど、一先ず受付の混雑が解消するまでは、自分でやろう。
「では、診察を始めるのですが……先に断っておくと、僕は医者で、触診っていう胸に触れる事で貴方の身体の状態を知ります。だから、決して疾しい事があるわけじゃなくて……」
「あ、うん。ララから聞いてます。恥ずかしいけど、身体の辛さが治って欲しいし、お願いします」
そう言って、少女が服をたくし上げたので、その胸に触れた俺は、こっそりと診察スキルを使用する。
流石ララさんだ。先回りして話をしてくれているから、スムーズに事が進む。
『診察Lv1
状態:蛙毒』
診察スキルによると、少女はララさんと同じ蛙毒だけど、弱と表示されていない。つまりララさんよりも症状が悪いという事だ。
「一先ず症状は分かりました。少しお待ちを」
とりあえず、蛙毒はキュア・ポイズンで治ると思うんだけど、Bランクで治るだろうか。
……というか、AランクとBランクしか無いから、必然的にBランクを出さざるを得ないんだけどさ。
「貴方の……えっと、すみません。お名前を窺っていましたっけ?」
「……ルルです」
「失礼しました。ルルさんは蛙毒に掛かって居ますので、こちらの薬を飲めば治りますね」
「蛙毒? どうして、そんな毒が……じゃあいただきますね」
パナケア・ポーションとは少し色の種類が違う、黄緑色の液体をルルさんが飲み終えると、
「……凄いっ! お姉ちゃんの言った通りだっ! 身体がだるく無いし、痛みも無くなった!」
突然物凄く元気になった。
まぁ、そもそも元気だったら、診療所には来ないだろうけどさ。
「ルルさんは、ララさんの妹さんだったんですね」
「あ! えへへ。身内って事もあって、お姉ちゃんが真っ先に教えてくれたんです。すみません」
「いや、それは構わないと思うけど……それよりも、ちゃんと治ったかどうかを確認するから、もう一度だけ胸を見せてもらえるかな?」
「もー、先生ったらエッチなんだからー。今回だけですよー?」
……どうしよう。ノリについて行けないんだけど。
これが若さという奴なのだろうか。
『診察Lv1
状態:健康』
とはいえ、診察スキルを使うと、ちゃんと蛙毒が消えている事が確認出来た。
一先ず、蛙毒はキュア・ポーションで治る事が分かったので、これからは迷わず出して行こう。
……Bランクしかないけどさ。
「先生、ありがとうございました! 友達にも教えてくるねー!」
「うん。苦しんでいる人が居たら、ここへ来るように言ってあげて」
「はーい!」
日本だと女子高生って感じだろうか。
役得とか言ったら怒られそうだけど、彼女の胸――じゃなくて、元気な笑顔を見られて良かった。
少しテンションが上がった所で、
「アーニャ。次の人は誰かな?」
「はい。ではエレナさん。診察室へどうぞ」
アーニャが次の人を案内する。
……うん。女性の胸ではしゃいでしまったからかな。
次はお母さんと一緒に来た男の子だった。
いや、もちろんちゃんと診察するよ? 苦しんでいる患者さんだからね。
ちょっと反省しつつ、次の診察を始めた。
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