第31話 診療所ごっこ

 一先ずララさんに服を正して貰うと


「ところでリュージさん。私の症状は一体何だったんですか?」


 何かを思い出したかのように症状を尋ねてきた。


「ララさんは、蛙毒に掛かっていたみたいです」

「蛙毒……ですか。なるほど。確かに症状を考えると、蛙毒にも当てはまる気がしますが、Fランクとはいえパナケア・ポーションは過剰治癒な気がします」

「そ、そうですか?」

「はい。でも、そのおかげで手足の冷えも治ったみたいですので、感謝していますが……ただギルドとしては、必要であれば仕方が無いとしても、もう少しお薬の価格を下げていただけると助かります」


 ララさんとしては、町の人を全員救いたいのだけれど、ギルドとしても資金が無限に有る訳ではないので、コストは下げたい。

 でも商人ギルドという組織である以上、公正な取引を行わなければならず、いくら俺が値下げすると言った所で、ダメなのだろう。

 日本だと、風邪を引いて咳が止まらないから市販されている薬を買うと、本来止めたい咳の薬だけでなく、熱を下げたり、鼻水を止めたりと、風邪に関する治癒を行う成分が沢山含まれている。

 けどララさんとしては、全部ひっくるめて治す総合風邪薬ではなく、本来必要な咳だけを止める薬にして、価格を下げて欲しいと言った所か。


「了解しました。では、暫くここで診療所を開いていますので、一時間経ってから町の人たちにここを紹介してもらえますか?」

「出来れば、今すぐにでも町の人たちを助けて欲しいのですが、ダメでしょうか?」

「えっと、その一時間でパナケア・ポーションではなく、蛙毒に効く適切な薬を用意しようかと思ったのですが……」

「そういう事なら分かりました。治療費は全て当ギルドでお支払いいたしますので、後で治した方のお名前と、用いた薬を教えてください」


 商人ギルドの正式な依頼として説明を受け、ララさんがギルドへ帰った後、再びセシルに話を聞く。


「セシル。さっき教えてくれた薬草――シーブーキだっけ? あれより、もう少し軽めの、蛙毒に効く薬草って知らない?」

「軽め? 軽めってどういう事?」

「うーんとね、シーブーキだと色々な症状に効果があるんだけど、高価すぎるからもう少し安価な薬にして欲しいって言われちゃってさ」

「シーブーキって高額なの? ボクの家に沢山生えていたんだけど」


 セシルの家に万能薬の元が生えてたんだ。

 というかセシルは貴族令嬢だし、値段とかあまり気にしないよね。

 AランクやBランクのポーションが普通だって言っていたし。


「値段の事は分からないけど、シーブーキみたいに何にでも効く訳ではなくて、蛙毒に効く薬草はどれ? って事だよね?」

「そう、そういう事。セシル、何かある?」

「そうだねー。これと、これ。あと、こっちとかも良いかなー」

「ふむふむ。なるほど。了解、ありがとう! ちなみに、今教えてくれた薬草って、この辺りに生えていたりするの? この後、大量にポーションを作らないといけなくてさ」

「んー、という事は、暫くここに家を置いたままにするんだよね? だったら、ボクが薬草を探して来ようか?」

「いいの? それは助かる。……アーニャにもついて行って貰った方が良いかな?」

「ううん、大丈夫だよ。じゃあ、ちょっと行ってくるねー!」


 そう言って、セシルが薬草を探しに家を出る。

 俺もポーションを準備しておこうと思ったのだけど、セシルに言われた事で気付いた事があってアーニャを呼ぶ。


「リュージさん。どうされました?」

「この後、一階のクリニックの部屋に町の人が大勢来るんだけど、そこでアーニャに受付と薬の配布をお願いしたいんだ」

「あの、受付はともかく、薬の配布なんて言われても、何を渡せば良いか分からないんですけど」

「それは俺が薬を指示するからさ。流れとしては、町の人が来たら、そこの受付カウンターで名前を聞いて、診察室が空いていればその人を診察室へ。空いて無ければ、入ってすぐの場所で待ってもらって欲しいんだ」

「待って居る人は、診察室が空き次第、来た順にお呼びする感じですね?」

「そうそう。で、これから薬を用意しておくから、そこの保管庫から俺が言った薬を取って、渡してあげて欲しいんだ」

「……が、頑張ります」


 アーニャは大変だと思うので、薬を探すのは俺も手伝う旨を伝えて、一先ず役割分担は出来たかな。

 受付をアーニャがして、セシルが薬草を調達し、俺が薬の調合と診察を行って、アーニャが薬を患者さんに渡す。

 急造ではあるものの、実家で両親や妹たちが行っていたのと、似たような形にはなっていると思う。

 そしてセシルから教えてもらった薬草をひたすら調合していくと、キュア・ポイズンにキュア・パラライズ、キュア・コンヒューズという薬が出来た。

 出来た……のだが、いずれもAランクとBランクばかりだ。

 どうやったら、CランクやDランクの薬が出来るのだろうか。

 ……水で薄めたら、出来るかな?

 そう思って、実験してみようかと思った所で、


「リュージさん! 大変です。た、沢山……沢山人がやってきました!」


 もう一時間が過ぎていたみたいで、クリニック側の入口に町の人たちが並んでいた。

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