第23話 ファンタジー的バトル?

 美味しい昼食に舌鼓を打ち、再び出発しようかという所で、アーニャが恐る恐る口を開く。


「あ、あの……結局、リュージさんが見たっていう妖精は何だったんですか?」

「あー、詳しい事は分からないんだけど、妖精の女王様に花粉を集めろって言われていたらしくて、それを薬にして効能を上げたら凄く喜んでたよ」

「妖精の女王……ですか」

「そうそう。人使いが荒いらしくて、ガーネット――さっき来てた妖精の名前なんだけど――以外の妖精もこき使われていたんだって」


 ブラック企業には断固戦わないとね。

 日本でブラックだったからか、ガーネットたち妖精に凄く感情移入してしまう。


「そうだねー。お兄さんの作った薬で凄く喜んでいたねー」

「あ、セシルさんも妖精を見たんですね?」

「うん、見たよー。お兄さんが作った目薬を使うと、隠蔽魔法で隠された物まで見える様になるみたいなんだ」

「あ、そういう事ですか。良かった……妖精の女王とか言い出すので、症状が悪化したのかと思っちゃいました」


 症状が悪化……って、あれ? もしかしてアーニャには、危ない幻覚が見えていると思われていたの!?

 違うからね? 声だって聞こえたし、実際に触れたからね!?

 ……今度、お礼をしに来てくれるって言っていたので、その時にはアーニャにも目薬を使ってもらって、妖精を見てもらわなくては。

 固い決意の後に、後片付けを済ませ、再び森の中へ。

 滋養強壮効果のあるポーションも飲んで居るし、何事も無く順調に進んで行って、夜を迎える。


 食事とお風呂――セシルはアーニャに任せた――を済ませた後、セシルはラノベ、アーニャは漫画を読みながらリビングで寛ぐ。

 そんな中、俺は一人調剤室で日中に摘んだ薬草をひたすら調合していく。

 というのも、セシルの見立てでは、明日の夕方頃には森を抜けるという話だったので、次の町へ着いた時に売るポーションを用意しておくためだ。

 資金稼ぎになるし、ついでに商人ギルドで話も聞けるしね。

 とはいえ、暗視目薬は売る訳にはいかないけれど。

 ……隠蔽魔法を打ち破る効果があるって事は、この世界のセキュリティ的なものを崩壊させる恐れがあるし、セシルも一度しか見た事が無いっていう妖精を、大勢の人が目撃する事になってもダメだろうし。

 という訳で、マジック・ポーションは売った実績もあるので、ポーションと名の付く薬を中心に作っていく。

 バイタル・ポーションのAランクとかが出来てしまったけれど、この前の商人ギルドのリアクションを考えると、Aランクは出さない方が良いかもしれない。

 そんな事を考えながら、初めて見るポーションなどを含めて纏めていると、


「お兄さん。そろそろお風呂へ入ろうよー」

「分かっ……じゃなくて、セシルはアーニャと入ろうか。その代わり、夜はちゃんと一緒に寝るからさ」


 セシルがお風呂へ呼びに来た。

 えぇーと唇を尖らせるセシルをなだめつつ、アーニャにお願いした後、昨日同様にベッドへ就寝する。


……


 翌朝。薬もいっぱい作ったし、明日は町で二人の服を買ってあげないとね。

 そんな事を考えながら歩き通し、セシルの言う通り日が落ち始めた頃に森を抜け、茜色に染まった草原へ出た。

 出た……のだが、そこで突然ファンタジー世界の洗礼を受ける事になる。


「セ、セシルッ! 危ない! こっちへ!」

「大丈夫だよ、お兄さん」

「いや、大丈夫じゃないって! アーニャも何とか言ってよ」


 周囲に街道や建物もなく、隠れる物が何一つない草原の真ん中で、大きな野犬? の群れに囲まれてしまったのだ。

 町が近くにあると信じて、真っすぐ進んでも良いのだが、見渡す限り何も見えないので、可能性は低い。

 それなりに距離はあるものの、後ろへ下がれば森があるので、木に登れば犬は襲ってこないだろう。

 だが、いずれにせよ、十数匹は居そうな野犬の包囲網を突破しなければならないが。


「あの、リュージさん。落ち着いてください。セシルさんが大丈夫だと言っているのですから、大丈夫なのでしょう」

「いやいやいや、むしろ、どうしてアーニャもそんなに冷静なのさっ! こんなに沢山の野犬に囲まれて居るんだよ!?」

「そうですが、まぁ所詮犬ですし」


 所詮犬……って、これが可愛いチワワに囲まれているとかだったら、俺だって落ち居ているさ。というか、むしろ癒されるよ。

 だけど俺たちを取り囲んでいるのは、ドーベルマンみたいな大きさで、やけに牙の大きな犬だ。

 狼だって言われても信じられるくらいの犬に囲まれて居るのに……アーニャが猫だから? 猫だから犬を毛嫌いして下に見ているの!?

 ……そうだ! 城魔法だっ! 突然大きな家が現れたら、この野犬たちが驚いて逃げるかもしれない!

 それに、家の中に入って閉じこもってしまえば、諦めて逃げて行くだろう。

 初めての状況でパニックとなってしまい、ようやく城魔法を使うという発想に至った所で、先頭に居たリーダー格らしき野犬がセシルに飛びかかる!


「セシルッ!」


 間に合うか!? とにかくセシルを守らなければ!

 数歩前に出ていたセシルに向かって駆け出した所で、突然野犬たちが宙へと舞う。


「え? えぇ? どういう事!?」


 飛びかかるなんて状況ではなく、周囲に居た野犬たちが回転しながら上空へと吸い込まれていき、そしてあっという間に居なくなってしまった。


「一体、何がどうなっているんだ?」

「え? 襲いかかって来たから、竜巻を発生させて遠くへ飛んで行ってもらったんだけど……お兄さん、どうかしたの?」

「た、竜巻って?」

「ん? ボクが使った風の魔法だけど?」


 ……あ、そっか。セシルはエルフなんだっけ。

 俺が城魔法を使えるように、セシルだって魔法が使えるのか。

 アーニャを見てみれば、この結果が分かっていたかのように、いつも通りの笑顔で、俺と目が合うと不思議そうに小首を傾げていた。

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