戦闘記録:アリオとクィン
序:傭兵としての仕事
何処かで、重々しい砲火の音が轟いたような気がした。
視界の向こう側に見える幾つもの噴射炎が、良く晴れた空に光の尾を曳いている。
それらは、まるで流星のように空を駆け抜けると、最後には雨となって、大地に降り注いでいく。そして一つ落着する度に、閃光と赤い炎とを噴き上げて、周囲に破壊をまき散らしていった。
そのような中で、状況の経過を眺めるように佇んでいる一機の
その機体は、全身を重装甲で包み込み、戦車の様な無限軌道の脚部と戦艦の様な長大な砲塔とを持っている事が特徴で、それが、周囲の存在たちに、脅威としての威圧感と信頼感とを振りまいている。
「目標消滅だね。ボク達の仕事も、ほぼ終了だ。後始末を除いてね」
「そう。まったく“
そのMF内部では、これを駆るフレームライダーの二人が、それぞれの視覚装置に送られてくる情報を確認しつつ、互いに状況に対する感想を言い合っている。
「立ち回り方はどうしようか、クィン。ここで抜けても、残りの報酬は全額貰えるけど?」
複座の後部席に座る美少女然とした若者が、手元の仮想キーボードを叩きながら前部席の少女、クィンに尋ねる。
「うーん……。まあ普通は、このまま帰宅コースなんだろうけど」
前部席の少女は、その整った目鼻立ちを僅かに歪めながら、装置に連結している手足で操縦機構を動かしていく。
「あの
「了解。弾薬費保障の契約とは言え、依頼主も出来れば節約したいだろうからね。敵勢力のクローン歩兵達の位置を拾って表示するから、移動ルートの選択は、そっちに任せるよ」
アリオと呼ばれた後部席の若者は、苦笑するクィンの言葉を引き取るように、優しげな微笑を浮かべるのだった。
二人のMFが、無限軌道特有の駆動音を立て始める。移動を始めると、その足元に転がっている全てが等しく平らになっていった。
つい数十分ほど前は歩兵達の安息場所だった瓦礫が。つい十数分ほど前までは駆動していた装甲車両が。つい先ほどまで誰かの物だった歩兵用プロテクターやヘルメットが。
その全てに存在していただろう過去の蓄積と共に、二人のMFが等しく地に還していく。
それは、この戦いの一側面。一幕に過ぎないありふれた出来事。誰かが生き、誰かが死ぬ。ただそれだけの、事実の積み重ね。
違いがあるとすれば、ここで死んだり生きたりするのが、戦争による人命損失を憂いた
この日も世界では、他人の善意にお膳立てされ、悲劇を飾られた、戦争というビジネスが続いていた。
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