壱:護る者として・Ⅰ
ある日の事。
「基地防衛の依頼ぃ?」
ねぐらとして利用している山間の拠点で休んでいたプラエスは、気だるげな様子のままリクライニングチェアから体を起こした。
「ええ。私らの防衛戦績の良さを買って、お願いしたいとかなんとか」
その近くに寄り、湯気の立っているコーヒーカップを小さなテーブルに載せつつ、イディウムは手に持っていた資料を読みあげる。
「依頼主は、人民連合所属の中規模企業『
「そりゃあ、また災難な話だねぇ。んで? そのタイミングで戦闘申請を叩きつけたクレバーな勢力はどんな奴ー?」
思い切り他人事と言う風情を隠しもせずに、プラエスはのんびりとした声音で話を促す。
イディウムは軽く肩をすくめると、資料の続きに目を向けた。
「これがさぁ。何と、同じ人民連合所属企業の『
「あー……。なるほど、そう言うカンジかぁ」
説明を聞き、何かを納得したような表情を浮かべたプラエスは、そのままリクライニングチェアに体を沈めた。
「要は内ゲバ。つまるところ、チョー最悪のタイミングで内部抗争仕掛けられたから、撃退に手を貸してくれと。めちゃダッルー……」
「同感。でも作戦予定の戦域図を見ると、今お世話になってる企業の拠点が近くにある場所みたいだし、無視も出来ないんじゃない? だからここでガツンとポイント稼いで、恩でも売っときましょ」
凄まじく苦い表情を浮かべたプラエスに苦笑しつつ、イディウムは努めて明るく彼女のやる気を促す話し方を行った。
「そうなるかぁ。ちなみに報酬は?」
「基本報酬が六百万クレジット。そして弾薬費として二十万クレジット。防衛任務の報酬としては少し高めってところね」
「それだけ先方も必死ってワケか。りょーかい。なら準備して出発しましょ」
プラエスが体を起こし、椅子の淵に座るようにする。その動きに合わせて、彼女の青色の髪の毛が顔に掛かり、わずかに横顔を隠した。
「ほーい。先にハンガーに行って準備しとくわねー」
そう言ってイディウムは背を向け、足早にその場を立ち去っていく。
「チョー助かるー。顔洗ったらすぐに行くからー」
その背を見送った後、顔をパシンと軽く叩いて自分を奮起させると、プラエスもまた機敏な動きで洗面室へと向かうのだった。
十数分後。フレームライダーとしての姿を整えた二人は愛機の
なお、輸送車両の運転は、彼女たち二人専属の整備員兼戦闘員が担当している。
「それにしても、大天重工も上手い具合に虚を突いたよねぇ。同業だから異動時季の読みもしやすいのかね」
コクピットの後方席でデータを整理しているプラエスが呟く。
「うーん、どうだろ。確かに当たりを付けて進攻しているように見えるし、そこに合わせて計画的に準備したんだろうなって感じはするけど……」
その言葉にイディウムは頷くも、しかし直ぐに首を傾げて見せた。
「でも、異動先の拠点をドンピシャで当てて、しかも相手が動きづらいタイミングで同時に叩くなんて芸当、普通だったら難しいと思うなぁ、私」
「ま、そう思うよねぇ。私もそう思う。内部を覗き見でもしてるか、誰かがコッソリ告げ口でもしてれば、話は別だけどねー」
「なら、プラエス的には裏切り者説を推す感じ?」
「いやー? 大ポカをやらかして内部の情報が漏れただけって線も十分にあり得るし、むしろ怖いのは……」
そこで言葉が途切れた。
「……怖いのは?」
それを訝しく思ったイディウムが後部座席に振り向き声を発する。見ると、プラエスは表情を引き締めた状態で考え込むように腕組みをしており、何事かを呟いている。
そして、さらにそこから数秒ほどの間を空けて、彼女は腕を解き、顔を上げた。
「怖いのは、こうなることも計算に入れた上で立てられた、敵を誘引するための大河重工側の作戦だった場合ね。その時は、私達の引き際も考えないといけない」
そのような言葉として自分の思考を口にした彼女には、ここまでの気だるげな空気は、微塵も感じられなかった。
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