弐:異端の罰 迎合の罪

 次々と立ち昇る黒い煙。旺盛に広がる赤い炎。響く金属の軋み。崩壊する建物。

 およそ絶望と言う名が相応しい光景の中に、一機のMFモビルフレームが佇んでいる。

 その両腕は、人のそれから鉄の大砲に換装されており、背部には、折り畳み式の巨大砲塔が接続している。脚部の無限軌道と合わせて、全体で一個の戦車を形成していた。

 突然、一発の砲撃音と爆発が起こり、何処かで複数人数の悲鳴が上がった。見れば、戦車型MFの腕砲塔から煙が立ち上っている。そして、それは数回ほど、悲鳴が無くなるまで繰り返された。


 その現場から少し離れた場所で、別のMFが一機、現場の惨状を記録するようにセンサーを向けていた。腕には、長い砲身が特徴的な光学式ライフルが握られており、備え付けられているスコープ状のパーツが、機体本体のセンサーと連動する動きを見せていた。


「今時は、兵士の命は作り直しがきくとは言え、無為に失わせて良いものでもないと思うのは、今の社会倫理的には、変なのかしら?」

「どうだろうな? 悲劇的な現実を見せ付けることと、それに合わせて兵器を売る、いわゆる平和防衛ビジネスを是とするのなら、首を傾げられるのかも知れないな」


 MFの内部では、ヤヨイとコルドゥラの二人が会話を交わしている。

 装着している装置を通じて網膜に投影される、戦車型MFの凶行について感想を言い合い、同時に、コルドゥラがライフルの照準を、ヤヨイが機体の動きの調整を行う。


「……照準調整、誤差調整よし。予測射撃の準備も良し。いつでも行けるぞ」

「ん、分かったわ。機体の追従も問題なし。標的の罪状は、依頼外の無用な破壊行為の繰り返し。戦争管理機関からの審判は完全排除。ところで」

「何だ?」

「今回の対象は、沈着冷静さが売りのライダーだったと思うんだけど、どうしてあんなことに?」

「何がきっかけでそうなったか、私も詳しくは知らないが、過剰なストレスによる感情爆発だそうだ。普段の反動と言うものなのだろう」

「なるほどね。聞かなかったことにしておくわ」

「ああ。どの道、暴走を始めたMFとフレームライダーは世界の脅威だ。完全排除は妥当だろう。これは事実だが、そう言う事にしておけ」

「そうするわ……」


 ライフルの銃口が動き、その先端に、徐々に光が宿り始める。青い光と微かな放電現象が、コクピット内の二人にも映像として投影される。コルドゥラは視線を動かして照準の最終調整を、ヤヨイはそれに合わせて機体を動かしていく。

 二人の視線の先では、戦車型MFが、相変わらず周囲に破壊をもたらし続けている。人の悲鳴はもう聞こえないが、そこら中で上がり続ける破砕音が、その代わりとなっていた。


「重レーザーライフル “ペネトレイター”……発射」


 そして、コルドゥラは躊躇い無く引き金を引き、照射されたレーザー光が対象のコクピットブロックに吸い込まれていく様子を、ヤヨイと共に見届けた。

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