悲劇の始まり

平穏な日常

「冬休みは夏休みよりも短い。だが、予想だにしないことが起こりうる期間だから、十分注意するように。それとこの後この大量の荷物を職員室まで運ぶ手伝いをしてくれる人はいないか?」

「学級委員の岡村君がいいと思います」

「それ賛成!」

先生の問いに対してクラスの皆が、学級委員を指名する。

その様子を見て先生は難しい顔をするも何も言わなかった。

「そうだね。先生、僕が手伝います」

クラスの学級委員岡村和真は何の気なしに仕事を引き受ける。

「いつもすまないな」

「いえ、これが仕事ですから」

申し訳なさそうに言う先生に対し、和真は笑って答えた。

「では先生からは以上だ。岡村、号令頼む」

 先生の話が終わると同時に、終業のチャイムがなる。

「起立、礼、さようなら」

 少し眠たそうにあくびをして、岡浦優子は自分の荷物の整理を始める。

 ようやく学校がしばらく休みというのになぜか憂鬱な気分になる。

「どうしたの岡浦さん?具合でも悪いの?」

 そんな私の姿を心配してか、和真が声をかけてきた。

「ううん、大丈夫だよ和真君。心配してくれてありがとう」

 首を横に振って私は答えた。

 和真君、正直いろんな人に気を使いすぎて『自分自身のことより他人の方が優先』という節があると思う。

 学級委員だからそれはしょうがないのかもしれないが、少しは自分のことも考えていいと思う。

「そっか。ならいいけど。何かあったら言ってね、相談乗るから」

「うん、ありがとう」

「じゃあまたね」

「うん」

 そう言って和真は去っていった。

 教室を出て昇降口まで歩く。

 少し背伸びをして気分を変えようとする。

 しかし、なかなか変わらない。まるで、大気に体を押し潰されるみたいに。少し不思議な感覚だ。

「はぁ〜」

 溜息をつきながら校門まで歩く。

「どうしたんだ優子?そんな溜息ついて?成績でも悪かったのか?」

 不意に声をかけられ振り向いてみると、幼馴染の浦部ひろがいた。

「いやぁさ、高校生活が始まってもう半年以上…。あの長かった受験期からもう半年以上経ったんだよ?月日が流れるのは早いなぁ〜と思ってね。それにクラスの皆んなの雰囲気もなかなかね…。そう思わない?」

「どうした急に?変なものでも食べたのか?いや、急激な老化現象だったりして!」

「人が真剣に考えてるのにひどくない!?」

「ごめん冗談冗談」

 笑いながらひろが言う。

「まぁ、月日の流れが早いのはともかく。確かにクラスの奴らの無責任感というか、『めんどくさい事はどうでもいい』みたいな感覚は、最近目に余るな」

「そのせいで、だいぶ学級委員に負担がいっちゃってると思うんだよね」

私はもう一度溜息をついた。

「それもそうかもしれないけど、あいつ自身が引き受けちゃってる以上は、しょうがないと思うけどな。嫌なら嫌って言えばいいだけだし」

ひろは半ばどうでもいいように言う。

「そんなことよりさ、今日どうするよ?結構時間できたから少し遠くまで行ってみる?」

そして暗い話から明るい話へと切り替えてきた。

「そうだねぇ〜。どうしようか?」

私もそれに合わせ思考をシフトする。 

今日は高校生活2回目の終業式だった。式だけならまだしも、先生の長い話を聞くことに加えて、大掃除というアンハッピーセットまでついてきた。

(折角のクリスマスイブなのに……)

 それでも思いの外、早く学校が終わった。

 元から『二人で遊びに行こう!』と予定を立てていたものの、大幅に時間を確保することができたため、予定を組み直さなければいけなかった。

「あっ!それならさ、明日のクリスマスに行く場所の下見に行くっていうのどうかな!」

 ちょうど、服も欲しかったから思い切った提案をしてみた。

「はい?君はバカですか?今日行ったら明日行く楽しみがなくなりますよ?」

 ひろが小さい子供をバカにしたように言ってくる。

「バカじゃないし!成績だって悪くなかったし、ちゃんと考えて言ってるし!」

 幼稚園生同士の言い争いのように思えてきてしまって、一見バカらしいかけあいが楽しいな、続いて欲しいな、と私は密かに感じた。

「どうしたんだ二人とも、歩道のど真ん中で言い争って、側から見るとイチャイチャしていて、見ていて腹が立つカップルだぞ?」

「そうだよ!喧嘩したらダメなんだよ二人とも!」

 振り向くと親友の栗林真白とその彼女の三澤悠未が二人で歩いてきていた。

「真白には言われたくないよ!いつもいつもイチャイチャしてさ」

 ひろが負けじと言い返す。が、

「何を言っているんだい?イチャイチャしているのは君たちの方だろ?下校時だけじゃなく、校内とか一緒に遊んでいる時とか、時々授業中もあるしね」

 と、真白に切り替えされてしまった。ぐうの音も出ないひろを見て思わず笑ってしまった。

「何で優子まで笑うんだよ!」

「ごめんごめん。すごくもっともなこと言われたものだから」

 ひろはまだ何か言いたそうな顔をしていたが、黙ってしまった。

「それで結局どうするの?下見に行くの?それとも、もっといい案があるのなら聞くけど?」

「それでいいよ。ただ、普通に下見に行くのじゃ時間が余るだろう

から、その後服でも買いに行くか…」

「えっ!服買ってくれるの?やったー!どんな服買ってもらおうかな?」

「いやそんなこと言ってないよ!」

「えっ、違うの?」

「お二人さん、僕たちも混ぜてダブルデートと言うのはどうだい?」

 二人の話に真白が割って入る。

「絶対嫌だ!てかまだ付き合ってないし…」

「まだ?じゃあこれからかな?」

ひろはしまったと言う顔をした。

そのひろを見て真白がニヤニヤ笑っている。

「とにかく付き合ってないよ!」

「ごめんね真白くん、今回はひろと二人だけで行きたいんだ。だから真白くんも悠未ちゃんと二人で楽しんできて」

そんなひろが見ていられなかったので、私は話を終わらせた。

「そっか。優子が言うならしょうがない」

 真白は少し残念そうに落ち込む。

「まぁ二人とも、イチャイチャしすぎて周りの人の怒りを買わないようにね」

「だからそんなにイチャイチャしてないって言ってるだろ!」

「真白君!からかいすぎだよ!」

 話に入れなかったのが気に食わなかったのか、ふてくされた悠未が割り込んできた。

「ごめんごめん。それじゃあ二人ともまた今度ね!」

「最近は何かと物騒だから二人とも気をつけてね!それじゃあ!」

「じゃあね!」

「そっちも気をつけろよ!」

 そう言って真白と悠未は去っていった。

「ふぅ〜。やっといなくなったよ」

「私達ってそんなにイチャイチャしてるのかなぁ?」

「まぁそういうのは、自分たちじゃなくて、周りの方が分かるものだからね」

 (そういうものかなぁ?)

 いろいろ考えてみたが、優子にはよくわからなかった。

「そういうことは置いといて、予定も決まったことだし。さっさと帰って準備して出かけよう!」

「うん、そうしようか」

 ごちゃごちゃ考えてもしょうがないと思い、思考を切り替えてひろの提案に同意した。

「じゃあまた後でね」

「ん、また後でな」

 いつもの別れ道まで来てひろに一旦別れを告げ、帰宅する。

「さぁ〜て、どんな服を買おうかなぁ」

 とても嬉しそうな顔で優子は家に入る。


 そんな優子を遠目で見ているものがいた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます