××たい。6

「赤羽くん、何言ってるんですか」

「そんなこと言うなよ。死んだら何もかも終わりだ」

「だから、俺は終わらせたかったんだよ!」

 声が枯れる勢いで叫ぶ。

 殺されたかった。生かされたくなかったのに。

「……死んだら楽になんのか。あんたは死んだら幸せなのか? あんたは死ねたら喜ぶのか?」

 やたらでかい声で、亜月は叫んだ。

「……ああ、そうだよ! 俺は生かせなんて頼んでない!」

 負けじと叫び返そうとしたら間ができた。けれど、その理由は考えないことにした。

 自分は殺されなきゃいけない。――それ以外は許されないのだから。

「ちょっと、二人ともやめなさい!」

 看護師が俺と亜月に注意をする。それを無視して、亜月は言う。

「……お前、死にたいなんて思ってないだろ」

 予想外の言葉に目を見開く。

 ――死にたいと思ってないだって?

「潤。あー、お前を助けた時、一緒にいた奴がいってたんだよ。飛び降り自殺は高ければ高いほどリスクが高くなる。それは逆に言えば、低ければ低いほど死なない可能性が高いってことだって。本当に死にたいなら、もっと高いとこから飛ぶんじゃねぇの?」

「……足場が悪かったから、低くても死ねると思っただけだ」

 声が小さくなった。何でかはよくわからない。

「じゃあわざわざ俺達の目の前に落ちたのは? 反対側でもなんなら隣のビルのもっと上の階でもよかったよな。その方が死ねた」

「それは……」

 探すのがめんどくさかったから、あそこにした。そのハズだった。実際めんどくさいと本気で思ってたハズなんだ。けれど、何故かそう言おうと思っても、声が出なかった。


 ――矛盾している。


 死に場所を探すのがめんどくさいから、死ぬのもめんどくさいのではなく、死にたいのに探すのはめんどくさいなんて。

 心の底から死にたいと思ってるなら、もっと確実に死ぬ場所を選ぶことだってできたのに。それな

のに、俺はそうしようとしなかった。

 めんどくさいとかではなく、たぶんまだ心のどこかで死にたくないと思っていたから。

「――目の前で死ねば、助けてくれると思ったんじゃないのか」

 それは、俺が一番聞きたくない言葉だった。

「思ってない。帰れ」

 掠れた自信なさげな声が漏れた。

「奈々絵」

「帰れ!!」

 大声で言う。

 俺はもう何も聞きたくないと言うかのように、布団を頭にかぶった。

「また来る」

 亜月がいう。

「亜月くん、また窓から侵入しようとしたら困るから、しょうがないので、次回から面会は許可しますけど、今日みたいに面倒を起こしたらすぐに帰らせますからね。あと面会の時は、看護師付き添わせますから!」

「よっしゃ! ありがとうございます! またな、奈々絵!」

 布団に向かって声をかけられる。

 何がまた来るだ。

 くそが!!

 親戚も同級生も、みんな死ねって言ったんだ。俺が息をしてるのは許されない。

 それでも、本当は怖かった。

 飛び降りようとした時、足が震えた。涙が流れそうになった。

 けれど、それがなんだ?

 怖いことは死なない理由にはならない。

 死刑を言い渡された人間が、そんな感情一つで罰が軽くならないのと同じように。

 死ねって言われたら、死ななきゃいけない。

 だって、そうしないと毎日死ねって言われるんだから。そんなの地獄でしかない。それなのに、何で否定しなかった。

 嘘でも否定しろよ!! でないと、あいつは俺がまた死にに行ったら、また止めるのに。

 涙が頬を伝う。

 ……本当は死にたくない。

 俺は布団をぎゅっと握りしめた。

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