頼れない先輩達
昼時にはまだ早い時間、最寄り駅から少し離れたファストフード店に凪と俊哉の姿があった。
デニム地のワンピースを着た凪は俯き気味に視線を落とし、話を切り出そうと開いた口を一度閉じる。 それから少し間を置いて、小さく深呼吸をしてから話し出した。
「あのね、あの時は、頭の中がぐちゃぐちゃで、自分でも、よく分からなくなってて……」
話しづらそうに言葉を紡ぐ凪は、俊哉を見れずにドリンクに刺さったストローを眺めている。
「あらたくんの好きなヒト……が問題じゃないのに……。 私が、どうするか……なのに……」
それを聞く俊哉は凪を見つめ、言葉を挟む事無く話の先をただ黙って待つ。
「関係ない萩元くんにまで八つ当たりして、本当に……ごめんなさい」
謝罪する凪の言葉に、俊哉の頬が微かに引くつく。
「私が、ちゃんと自分で決めるから……巻き込んでごめんね」
最後の言葉は顔を上げて、俊哉の目を見て言った。
聞き終わった俊哉はその視線を受け止め、微かに笑みを浮かべてから応え始める。
「あの日が無かったら、俺にはこの休み中何も無かった。 寧ろ連れ出してくれて感謝してます」
「でも……」
「最初色々言われた時は関係無かった。 でも、俺は気持ちを伝えたんです。 だから、関係無いとは言われたくない」
舞台に上がった少年は、未だ無関係だという認識を嫌った。
「……ごめんなさい」
「謝ることないですよ。 お陰でこうして休み中も会えたし、連絡先も貰えたし、私服姿も見れた。 大進歩です、何の文句も無い」
凪は満足そうな顔をした俊哉を見て呆けている。 今の自分にはまだ出来ない、前向きな相手が眩しく見えたのだろう。
「ここからは、自分のやりたいようにやります」
「……それって、まだあらたくんを?」
自分の事で俊哉の時間を使わせたくないから呼び出したのだ、いくら自分の意思だと言われてもやはり気になってしまう。
「どうですかね、好きな人は受験生であまりちょっかい出せないですし、やる事ないんで。 まあ……あんまり浮かれているようだったら勉強しろって言ってやりますよ」
「……年下なのに、偉そうだね」
生意気な言い振りに笑みが零れる。
俊哉はそれに笑い返し、
「うちの部の先輩方、どうも頼りなくて」
そう言われるとぐうの音も出ない。 新が後輩の俊哉を諭そうとして、逆に相談していたのも知っているし、自分はこの様だ。
「こんなに、喋る子だと思わなかった」
「興味のある相手には喋ります」
「じゃあ、最近私に興味持ったんだね」
「っ………やりますね」
話すようになったのはつい最近、俊哉がいつから自分に気があったのかは分からないが、ここ数週間ではないだろう。
先輩の反撃に俊哉が苦い顔をしていると、凪は少し沈んだ声で、
「今は、まだ何も言えないから……ごめんね」
俊哉は半ば呆れた顔をして応える。
「今返事くれって言ってもフラれるだけじゃないですか。 それより、私服も可愛いですね」
気持ちをさらけ出した俊哉は、既に間宮先輩を越えた台詞を並べられるようだ。 凪は困った顔をしてほんのりと頬を染め、
「……そういうの、信じられない時期なので……」
「ああ、それ俺の先輩のせいですね。 後輩に尻拭いさせるんだから、ホント困ったもんですよ」
「生意気、だなぁ」
新の作った失恋の傷は自分が埋める。 そう言い放つ後輩に凪が頬を膨らませていると俊哉は大袈裟に溜め息を吐き、
「出来れば俺だって、偶には後輩らしく甘えたいもんです」
喋り上手で甘え下手な後輩は、年下にすら見える幼顔の先輩を愛しげに見つめ、悪戯な笑みを浮かべていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます