男友達
修学旅行が終わり、次に控えるのは期末テスト。 受験生である新達にとっては勉学に力を入れなければならない時期となる。
「また一緒に勉強する?」
休み時間に声を掛けてきたのは、成績優秀な頼れる幼馴染。 前回はみやび、そして夕弦の協力もあって成績を伸ばした新だったが、
「やめとくよ、みやびの足引っ張りたくないし」
「私は全然平気だけど……」
丁重にお断りすると、みやびは寂しそうな顔をして口を尖らせている。
( あんな大変な思いはもうコリゴリだよ……感謝はしてるけど…… )
中間テストの時を思い出し、まさかのトリプルブッキングを避ける為に立ち回った苦労が頭を過ぎる。
「俺も勉強しないとな。 推薦取れるほどウチのバスケ部強くないし」
傍に居た臣がぼやくが、やはり以前のようにみやびを推して勉強会を開こうとは言わないようだ。 鋭いみやびの事、その変化に気付いている可能性はあるだろう。
また昼休みには、『愛花が森永くんに一緒に試験勉強しよって誘ったら断られたんだって! やっぱり待ってるのかな……私からの誘いを……』という皐月からのメッセージが入り目を細める。
( ……なんだろう。 前より嫌な気分だ…… )
夕弦への気持ちを自覚した新は、皐月の馬鹿げた勘違いすら以前のように笑えなくなってきたようだ。
( これもタイミングを見て決着つけなくちゃっ )
またやるべき事が増えた新。
恐らく簡単にはいかない相手の上に、話せる事柄が限られている彼に上手くやれるだろうか。
やがて放課後になり、新が帰り支度をしていると、
「あらたくん、一緒に帰ろう」
ゆっくりと新の恋心を育てようと歩み寄る凪が声を掛けてくる。
「……ああ、そうだね……」
目を合わせず、いつもと違う様子に凪は首を傾げ、
「……何か用事でもあるの?」
「ううん、何も――」
断る理由も無く、不自然だと感じた新がそれに応じようとした時、
「悪りぃな鶴本、今日は俺が借りるんだ」
新の肩に手を置いたのは臣だった。
「そう、なんだ……」
「ああ。 なっ、あらた」
「う、うん」
◆
帰り道、並んで歩く二人の男子は暫く無言だった。 こうして男友達と新が帰るのはかなり珍しい光景だが、会話が無いのはそれが原因ではない。
「まだ、話してないんだな」
「……うん」
「いつ話すつもりなんだ?」
「テストが終わったら話すよ。 みやびの時はタイミングも考えずに、悪い事をしちゃったから」
結果みやびは普段通りの成績を納めたが、これはそういう問題ではない。 そして新は、みやびより凪に気を遣っている訳ではなく、少し成長して時期を見れるようになったのだろう。 臣もそれを理解していた。
「そうか」
「凪ちゃんには……どうしたらいいかわからない、辛い時に沢山助けてもらったから。 気持ちには応えられないけど、話す時期は考えてあげたい……」
話せば、結局裏切り傷つける事になってしまうだろう。 それを思うと気が重い。
「テストが終わればすぐ夏休みだ。 気持ちを整理するには十分時間もあるしな」
励ます訳ではないが、その選択が良いだろうと肯定してくれる友人に新は救われていた。
「臣くん」
「ん?」
「話、聞いてくれてありがとう」
「……いいよ」
「相談って、ちょっと前までみやびしかする相手いなかったから」
「自慢か?」
「そ、そう取られる……とは……」
「冗談だよ。 いや、僻みだ」
みやびに相談出来る案件ではない。 男友達の有難味を感じる新に、臣は少し皮肉った返事を返して口角を上げる。
◇◆◇
―――そして期末テストも終わり、終業式の日。
新はみやびに告白されたあの日、大勢の目から逃げ回り蹲った、薄暗い非常階段に居た。
――――『振らない』。
まだ恋心を知らない、弱い自分がしたいい加減な約束を謝罪する為に。 蹲る自分を救ってくれた、癒しの存在だった少女を連れて――――
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