偶然と戦う真っ直ぐ
最後の最後。 もう終わる筈だった今日を迷う臣。
( せっかく今…… )
やっとみやびから明るさを感じられた。 それを喜んでいた所だった。
( そうだ、何も今日じゃなくても…… )
急ぐ必要はない。 またチャンスは必ず来る筈だ。
「どうしたの?」
「いや、何でも……」
このままやり過ごすのが正解だ、みやびの為にも。 臣はそう自分に言い聞かせて見なかった事にする―――筈だった。
「ちょっと来てくれ!」
「――えっ!? な、なにっ!?」
みやびの手を引き、丁度通りにあったゲームセンターの中に入って行く。
( ちげーだろ……あいつは、あらたは一人だった……! 何でか知らねーけど…… )
歯噛みをして顔を歪める臣は、みやびを連れて店の中を進んで行く。 そして、
「最後にお願いだっ、思い出にプリクラ撮ってくれ!」
手を合わせて拝む。 すると、
「あ、あのね、もうちょっと落ち着いてお願いしてよねっ……! びっくりしたでしょっ ………大体、もう連れて来られてるし」
二人は既にシートで覆われた機械の中。 ここまでしておいて『お願い』、とは今更で呆れる。
「で、ちょっと待ってて、すぐ戻るっ!」
「はい? あっ……!」
突然連れて来ておいて、今度は突然居なくなる慌しい男。
「……なんなの? 両替、かな?」
何故そんなに急ぐのか理解出来ないみやびは臣の行動に首を傾げるしかない。
その臣は―――
( 協力するなんて言っといて、てめー可愛さに逃げてるだけじゃねーかっ! 役目を果たせっ……! 何の為に
全力で動いた、裏切りかけた気持ちを恥じて。
店の外に出た臣は、人混みをすり抜けて追いかけた、今日の目標を。
そして―――
「よぉ」
「――は、はいっ!?」
突然後ろから手を掴まれたターゲットは怯えた顔で振り向く。
今日、もし見つけられたなら、きっとそれは、
「『偶然』だな、あらた」
それしか無いだろう。
そう言っていた台詞を、やっと最後に言えた。
◆
( もうっ、なんか一人でこんなトコ居たら変なコだと思われちゃうじゃない……! )
戻りを待つみやびは、残されたこの状況に困り果てていた。
( 戻って来たら文句言ってやるからっ! )
みやびが眉尻を上げた時、シートも上がった。
「ちょっと、こんなトコで――」
そして、早速浴びせた文句は―――
「な、なんだって……―――なぁっ!?」
言う相手が違ったようだ。
「……みやび?」
「……あらた……どう、して?」
茫然と見つめ合う二人。
新は訳が分からず、とにかく今あった出来事を話し出す。
「いや、急に臣くんが現れて、急に急用が出来たから代わってくれって……」
「………そ、そう」
急が重なり、『偶然』にも二人は出会えた。
「よく、わかんないけど……帰るね」
「ま、待って!」
事情が呑み込めずに帰ろうとする新の腕を掴む。
「か、代わりに来たんでしょ? だったら、代わりに撮ってよ……一緒に……」
「え……」
結局、流されるまま幼馴染二人の撮影が始まった。
「ほら、新笑って?」
「な、なこと言われても……ち、近いって……!」
「こんなの小っちゃい頃以来だよ?」
「撮ったっけ?」
「は? まさか捨てたの!?」
「ひ、人聞きの悪い……! 無くした、かも……」
「ゔぅ~……ちゅーして撮るからっ!」
「落ち着こうっ! 多分家にある! ………筈」
◆
騒がしい撮影が行われている時、一人駅に向かう臣は、
「せっかく元気出したトコなんだから、頼むぜ……あらた」
呟いた後、みやびにメッセージを送る。
『フラれた俺が無理言って買い物付き合ってもらったことにしといてくれ』
送った画面を眺めて、また呟く。
「邪魔しちゃ意味ねーからな」
そう言いながらも、あの時一瞬新を見なかった事にしようとした自分は、まだ完全にみやびを諦められていないと自覚せざるを得ない。 だからと言って、
「お前じゃなきゃ見れねーもんなぁ、
空を仰ぐ目は、自分には届かない、それを理解した遠い目だった。
ただ、もしあのまま裏切っていたら、この先みやびの傍には居なかった。 いや、居られなかっただろう。
それを仕方ないと自分を甘やかすには、彼の性格は真っ直ぐ過ぎる。 笑っているみやびが見たい、その為に協力すると言った自分が、嘘になってしまうのだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます